児童買春・大麻所持・特殊詐欺・盗撮・飲酒運転・風俗店バイト…相次ぐ警察不祥事 19年前を忘れたのか

警察の不祥事が止まらない

警察の不祥事が止まりません。盗撮や飲酒運転はもう珍しくもなく、児童買春や大麻所持のほか特殊詐欺の捜査を装ってお年寄りからお金をだまし取る警察官もいます。

今よりもっと多くの悪質極まりない不祥事が相次いだ1999~2000年、日本警察は解体の危機にさらされました。外部の有識者の提言を元に、警察の総元締である国家公安委員会と警察庁が00年8月に「警察改革要綱」をまとめ、国民に再生を誓ったはずです。それからわずかに20年足らず、当時の危機感や緊張感が消え失せたように思えてなりません。

今年1月~6月に懲戒処分を受けた全国の警察官・職員は113人でした。前年同期に比べて8人減り、記録の残る2000年以降で2番目に少ない、と警察庁は発表しました。昨年1年間では257人(前年同期比3人減)です。一時期の年間500人超の頃に比べれば確かに減ってはいますが、本来はゼロであるべきです。

なぜ逃亡犯は増えつづけるのか

「全国の警察官・職員は30万人弱。これだけの人数がいるのだから絶無は不可能」と、ある警察幹部は言います。幹部がそんなことを言ってはいけません。縦社会の警察組織は上意下達が徹底しています。不祥事に対する幹部のこうした認識は、公言せずともじわじわと組織に広がっていきます。長く警察を取材してきた経験に基づく実感です。

最近の不祥事で気になるのは、警察の本義をかなぐり捨て、というより本義を知らないのかと思えるほどの無軌道ぶりです。警察の基本を定めた警察法は、警察の責務について①個人の生命、身体及び財産の保護に任ずる②犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕に当たる③交通の取り締まりに当たる、などとしています。

実態はどうでしょうか。

京都府警山科署の巡査が2019年6月、詐欺容疑で逮捕されました。ネタは特殊詐欺です。といってもこの巡査が、いま全国で猛威をふるう特殊詐欺そのものをやったわけではありません。特殊詐欺対策に乗じて、伏見署交番勤務時代に78歳の男性から約1180万円をだまし取ったとされています。

きっかけは金融機関から警察に寄せられた「男性が大金を引き出そうとしている。特殊詐欺被害かも」との通報でした。巡査は男性の元へ行き、事情を聴くうち、男性が資産があるのに生活保護費を受給していたことをつかみ、その捜査を装って「お金を預かる」などとうそを言って詐取しました。

お年寄りらが1日に1億円を全国でだまし取られている特殊詐欺の被害防止は、警察の重点項目です。金融機関にも協力を求めていて、「大金を引き出そうとするお年寄りがいたら即座に通報を」と呼び掛けています。その通報を巡査は逆手に取って犯行に及んだのです。金融機関の信用も損ねました。今後、協力に二の足を踏みかねません。巡査はFX投資にのめり込んでいて、詐取金の大半をこれに充てていたようです。

若手に教える立場の教官による不祥事も。九州管区警察学校の男性教官が19年6月、住居侵入などで書類送検されました。

階級は警部です。警察法で定める警察官の階級は九つあります。いちばん下の巡査から順に巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監で、警部は中間幹部の位置づけです(「巡査長」は警察法上の正式な階級ではない。長く巡査にとどまっている人の士気高揚を図るために設けた制度)。

その警部が警察学校の女子寮に侵入、個室の鍵をマスターキーで開けて入り込んだのです。その数なんと50回以上です。目的は何か。警察関係者によると、タンスを開けて中にある衣類を眺め、撮影することだったようです。警部は、量販店で女性の尻を触ったとして県条例違反容疑でも立件されており(後に不起訴処分)、その際の捜査で携帯電話に衣類の写真が残っていたため、女子寮侵入が判明しました。「どこかの警察学校の教官が女子寮の見回りをしていると聞き、自分もしてみたかった」と説明したようです。

警察官が女性にストーカー

静岡県警の巡査は、ストーカー事案の被害者である女性の自宅で、事情を聴いているさなかに抱きつくなどのわいせつな行為をしたとして逮捕されました。

埼玉県警の巡査は急死した男性の遺族から82万円をだまし取り、さらに200万円を詐取しようとして逮捕されました。医師の死体検案書のコピー提出を求めた際に「ほかに82万円かかります」とうそを言い、警察署のロビーで受け取ったとされます。動機は「スマホの課金ゲームやパチンコでつくった借金の返済」と。

警察官しか知り得ない情報を外部に漏らす案件も「健在」です。警視庁麻布署の巡査部長は、金銭トラブルの相手の行方を探していた元暴力団組員に、警察内のデータベースで調べた情報を伝えた疑いで摘発されました。大阪府警の生活安全担当の2警察官は、風俗店の捜査情報を府警OBらの依頼で漏らし、見返りにキャバクラなどで飲食接待を受けたとして加重収賄容疑で逮捕されました。

暴力団関係者は取材に「摘発を逃れるには警察官を抱き込めばいい。カネに困っているやつをいつも探している」と明かします。過去に何度もこの手の事件が発覚しているのにいまも絶えない。脇が甘すぎます。

女性警察官の不祥事もあります。山口県警の巡査が海を渡った福岡県内の派遣型風俗店で働き、約8万円の報酬を得ていました。「生活費の足し」にしたかったそうです。別の山口県警巡査はスマートフォンの出会い系アプリで知り合った複数の男性と、お金の受け取りを条件に交際していました。

警察は、女性の増員を目指しています。後に続く女性のお手本になる振る舞いを切望します。

「盗むな、触るな、不倫するなは日常の教育の場で伝えている。ここまで多種多様な不祥事が続くと、どうすればいいのか……」。西日本の警察本部で不祥事を担当する警察幹部は頭を抱えます。これまで警察は、さまざまな防止対策を講じてきました。でも続きます。

私はかつて、警察内部でひそかに検討されていた対策案を元に「採用時にポリグラフ導入」や「警察学校入校中に不適格者排除」を朝日新聞紙面に書きました。ポリグラフは実現していませんが、学校入校中の排除は進んでいるようです。「排除ではなく、あなたに向いているのは警察官以外の仕事。考えてみては? と優しく告げて転職を勧める」(幹部)そうですが。

「00年の『警察改革』は多くの警察官にとって歴史上の一コマに過ぎないのかも」と、改革の関連法改正に携わった警察幹部は嘆きます。19年前の恥ずかしさを身をもって体験していない層が増え、不祥事によって国民の信頼を失う怖さが理解できないのだという。

不祥事が起きるのは防げない。発覚したら隠さず、徹底的に原因や背景を解明して再発防止に役立てる。これを地道に続けるしかないのが現状のようです。

広島県警広島中央署では、署内の金庫に保管中だった特殊詐欺事件の証拠品8572万円が2017年に盗まれました。解決できていません。大阪府警富田林署の留置場から、強制性交容疑などで逮捕されていた男が逃げたのは2018年8月でした。その後の検証で、留置管理の基本をないがしろにしていた不手際が多数わかりました。面会室の出入りをチェックするブザーの電池が抜かれていた▽月に一度の設備点検が義務づけられているのにしていなかった▽留置場内に持ち込み禁止のスマホで担当警察官がアダルトサイトを見ていた、などです。逃げた男を山口県で確保するまでに49日を要しました。凶悪事件容疑者がつかまるまでどれだけ国民を不安にさせたことか。

私は2012年9月28日付朝日新聞朝刊「記者有論」という欄に「警察へ 不祥事なくせ 能書きいらぬ」と題した記事を書きました。多くの警察官・職員が、時に生命の危機を顧みずに日々仕事に取り組んでいることは知っています。それでも同じ事をしつこく申し上げたい。(文◎緒方健二/朝日新聞)

© TABLO