社説(7/23):憲法改正の行方/丁寧な説明の用意はあるか

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 国民世論の絶妙なバランス感覚を感じさせる参院選の開票結果である。与党の安定した戦いぶりを強く印象づけた一方、維新を含む憲法改正に前向きな「改憲勢力」は、改正の発議に必要な3分の2の議席を割り込んだ。

 自民、公明の与党は改選過半数を上回ったものの改選前の議席数には届かず、自民は単独過半数を失った。手堅い選挙戦を与党は展開し一定の勝利を手にはしたが、あくまで微妙な勝利である。

 今回投票した有権者の多くは、6年半余りに及ぶ安倍晋三政権の経済政策や外交の成果に対しては、一定の評価を与えつつも、憲法改正問題に関しては、極めて抑制的な選択をしたと言えよう。

 「未来へ責任を持って議論する政党か、議論を拒否する政党かを選ぶ選挙だ」。改憲を悲願とする首相は、選挙戦を通じてこうした趣旨の訴えを繰り返し、改憲が争点だと位置付けた。

 しかし、政府が優先するべきは、理念が先行する抽象的な課題ではなく、高齢者にとっては介護や年金などの社会保障、若い世代にとっては雇用や景気など、生活に直結する身近な問題だ。そうした民意の持つ違和感が選挙結果に表れたのが、今回の参院選ではないか。

 政権が描く今後の政治日程は、まずは秋の臨時国会で投票の利便性を高める国民投票法改正案の成立だ。その上で憲法9条に自衛隊を明記した自民党の改憲案を来年の通常国会で成立させることだ。

 改憲勢力が3分の2を下回り、改憲を巡る政治の駆け引きは今後活発になろう。改憲に一定の理解を示す国民民主や無所属の一部議員を取り込む多数派工作に与党は乗り出す構えだといわれる。

 憲法を巡って最も重要なのは、国民に対する丁寧な説明である。激変する国際情勢と現行憲法の条文とに齟齬(そご)が出ているのは否定できない現実であり、そうである以上、あるべき憲法の論議そのものに反対する理由はない。

 ただし、憲法のどこをどのように変えたいのか、そして現在、どれほど改正の必要に迫られた状況にわが国は置かれているのか。多くの国民が改憲に消極的なのは、この点に関して疑念と不安が付きまとうからだ。

 東日本大震災の被災地に取材すると「被災地に寄り添った政治を」という要望が最も多い。解決が困難な問題が次々に生じ、苦悩する生活の場には、憲法を考える余裕はない。安心できる暮らしこそが最優先の課題である。

 安倍政権に不足してきたのは、政権運営の丁寧さではないか。自らの自民党総裁の任期から逆算したスケジュールありきではなく、国の根幹にかかわる憲法は時間をかけた議論が必要だ。そうしなければ、改憲発議の国民投票で過半数の賛成を得られずに否決される可能性もある。