吉本興業の岡本社長が会見、「反社排除の対策が不十分だった」

 所属タレントの「闇営業」問題に揺れる吉本興業(株)(TSR企業コード: 575599758、大阪市中央区)の岡本昭彦社長が7月22日、都内で会見した。会見には数百名の報道陣が集まった。
 会見は7月20日、宮迫博之氏(雨上がり決死隊)と田村亮氏(ロンドンブーツ1号2号)の2名が、反社会的勢力の会合への参加や金銭受領などを単独会見で公表したことを受け急遽、開催された。
 7月19日、宮迫氏は吉本興業から契約解除の処分を受けたが、岡本社長は「意思疎通が取れていなかった」とし、宮迫氏と田村氏に謝罪。宮迫氏の契約解除の撤回を表明した。
 岡本社長は時おり涙ぐみ、信頼回復を目指す意向を示した。しかし、パワハラまがいの対応について質問されると、岡本社長は「冗談だった」と苦しい弁明に終始。巨大組織で、公共性の高い吉本興業だが、社長会見で皮肉にもガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)の理解の薄さが浮き彫りになった。

吉本興業の本社(大阪市内)

これまでの経緯と宮迫氏らの会見

 写真週刊誌「フライデー」が闇営業を報道したのを受け、吉本興業は6月24日、タレントの宮迫博之氏や田村亮氏など11名を当面の活動を停止する謹慎処分を発表した。
 また、吉本興業は6月27日、「あらゆる反社会的勢力との関係は一切有しておらず、今後も一切の関わりをもたないことを固く誓約・宣言いたします」と「決意表明」を公表していた。
 その後も、宮迫氏らと会見や引退などについて協議を重ねていたが、7月19日に宮迫氏の契約解除を発表。すると翌20日、宮迫氏と田村氏が電撃的な会見を開いた。 宮迫氏らは会見で、「いわゆる反社会的勢力と気づかずに吉本興業も自社のタレントを派遣し、そこから入ったスポンサー料でギャラを支払っている」と、吉本興業の社会的な責任にも言及した。
 また、岡本社長から「テープを回してないか」、「一人で会見したら全員連帯責任で首にするからな」と言ったとされ、パワハラ疑惑まで浮上していた。

会見する岡本昭彦社長

2点の課題と再建策を発表

 岡本社長は会見で、「コンプライアンスの徹底」と「芸人・タレントファースト」の2点を改善策として掲げた。
 「コンプライアンスの徹底」について、岡本社長は「所属タレントが反社会的勢力から金銭を受領した。反社会的勢力の排除が徹底できていなかった」とコメント。 複数回のコンプライアンスに関する研修、24時間対応のホットライン創設など、コンプライアンス強化策を説明した。
 「芸人・タレントファースト」については、タレントが最高のパフォーマンスができるようにしていかなければならない」と説明。
 岡本社長は、宮迫氏と田村氏に対し、「正しい意思疎通ができなかった」と詫び、説明の途中で言葉が詰まり、涙ぐむ場面もあった。
 会見は冒頭、吉本興業側から経緯説明が約50分あり、その後は質疑応答に移った。  宮迫氏らが会見で明かした岡本社長のパワハラ疑惑は、「テープを回していないだろうな」と発言したが、「和ませようと冗談で言った」と語り、記者からは失笑がもれた。
 宮迫さんらが反社会的勢力から金銭を受け取った後、吉本興業から「静観」と言われたことについては、「静観を使ったかは定かでない」と語るにとどめた。
 また、「首にする力がある」との発言について岡本社長は、「身内というか、もうええかげんにせえ。そんなバラバラなら勝手にせえ。会見するなら全員首やという感じで言ってしまった。結果的に(真意が)伝わらず、距離感にギャップがあり、僕自身が反省しないといけない」と弁明した。
 宮迫氏らの会見で明らかにされた反社会的勢力のイベントを後援していた件は、「事実ではない。吉本興業はすべての取引先の反社会的勢力をチェックしている。(この件も)主催者をチェックしたが、そのスポンサーまではチェックしてなかった」と弁明した。しかし、反社チェックが形式にとどまり、機能していなかったことを自ら認める発言となった。
 社長の進退について、記者から「代わらないと吉本興業も変わらないのではないか」と質問されると、岡本社長は「僕自身が変われるかが問題なので自分自身を変えていかなければと思っている」と辞任を否定した。
 「(首にするぞは)パワハラ発言と思うか」と問われると、岡本社長は「僕はそんなつもりはない。そういう風に感じているならばそうだと思う」と、自分の発言とパワハラの受け止め方のズレを認識していない様子だった。

 吉本興業は、信頼回復を目指して社長が会見に応じた。しかし、社長の口から出る言葉は、大企業としてのコンプライアンスやガバナンスを自覚しているか多くの疑問を抱かせた。また、今回の件で所属する芸人やタレントとの意思疎通、反社会的勢力の排除、人気タレントの契約解除という重大事項の決定まで、吉本興業の脇の甘さも浮き彫りになった。
 日本を代表するエンターテイメント企業、吉本興業が本当の笑顔を世の中に提供できる日はいつ訪れるのだろうか。

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