ロッテ鈴木、好調を支える試合前の“特別な練習” 「朝起きて歯磨きをするのと一緒」

打撃練習を行うロッテ・鈴木大地【写真:岩国誠】

開幕ベンチスタートもレギュラーを奪い返した鈴木

 今季開幕はベンチで迎えたものの、自らのバットでレギュラーを再奪取したロッテ・鈴木大地内野手。7月22日現在、84試合に出場。打率.299(311打数93安打)、12本塁打(自己最多)、47打点と好調を維持するチームリーダーには全体練習前、ホーム球場で行う“ある習慣”があった。

 7月某日、ナイトゲームを控えるZOZOマリンスタジアム。全体練習が始まる30分程前、三塁ベンチ前には必ずと言っていいほど、打撃投手が正面からあげる少し緩いトスを、1球1球確認しながら、楽しそうに打ち返す鈴木の姿がある。

「全体練習前にバットを振りたいなと。そういう習慣をつけたいなと思って」と昨年途中、打撃投手に協力を仰ぎ、この練習を始めた鈴木。きっかけは自身のパフォーマンスに対する危機感からだった。

 昨シーズン「5番・三塁」で開幕を迎えた鈴木だったが、5月終了時の打撃成績は160打数37安打、打率.231と低迷し、下位を打つことも多くなった。「昨年の初めは不甲斐ない成績で、シーズン途中に『本当、このままだったら終わるな』と思ったので、まずは量を振りたいなと。ただバットを振るだけでは自分の中では続かないなと思ったので、やはり試合に直結するようなイメージでちゃんと前から投げてもらって、タイミングをしっかり取って打っています」

 一見すると、ロングティーのように見えるこの練習だが、通常のものとは違い「なるべく試合に直結するイメージで」という鈴木の考えが大きく反映されている。

 まずトス上げの位置だが、打者の斜め前方からではなく、実戦の投手と同じく打者の正面、10メートルくらい離れた位置から、防護ネットを挟んで行う。トスは下から投げるのではなく上から、緩いボールを投げるのだが、そこにも鈴木のこだわりがある。

すでに自己最多の12本塁打をマークするなど好調を維持

「山なりになりすぎると、目線が上を向いてしまうので、それが嫌なんです。でもある程度緩いボールでないとタイミングが取れない。山なりになりすぎず、球が速くなりすぎずと結構、僕が注文を多くしてしまっているんですが、それに応えてくれているのでありがたいです」と、その意図を語り、難しい注文に応える打撃投手にも感謝していた。

 緩いボールを打つことにも大きな意味がある。

「この練習は低いライナーで、ドライブ回転せず、なおかつスライスもしすぎないように、フワーっと回転よく伸びていく打球を、バランス良くセンターへ打ちたいという意図でやっています。速いボールだと手先で打ててしまうんですが、遅いボールだとしっかり足を使ってじゃないと強い打球が打てない。そういうことを含めて、なんとなくこの形に行き着いたという感じです」

 さらに三塁側のネクストバッターズサークル付近で、この練習を行っていることにも意味があるのだという。

「あそこから打ったら、左に行き過ぎると(三塁側のファウル)スタンドに入っちゃうんですよね。ちょうど、打席からセンター方向だけにヒットゾーンが見えるので、そこを目標に打ち返すっていうのもあります。逆に振りすぎてしまうと、(ネットや打撃ゲージが置いてある)右へ行ってしまいますし、かと行って力みすぎて変なバランスで打っていたら、三塁側スタンドに入ってしまうので」と、打球方向が限定されることで、自身が思い描く「センター方向への回転よく伸びていくライナー」の意識を強く持ちながら、打球を飛ばせるというわけだ。

 今季既に自己最高の12本塁打を放つなど好調を維持している。この練習の効果について「正直、分からないです。ただ、自分の中では朝起きて歯磨きをするのと一緒で、ホームの時はこの練習をやると決めていますし、その中で前日だったり、当日の状態で意識やイメージを変える微調整の場でもあります。(全体で行う)通常の打撃練習では、その時間が取れないですし目的も違うので、やはり自分の時間でのそういう(微調整の)部分を大切にしようと思ってやっています」と、自らの状態を確認、調整する大切な時間となっている。

「1日1日、できることを大切に」と、積み重ねてきた結果、レギュラー再奪取。6月には自身初の月間MVPを受賞したほか、7月16日には通算1000試合も達成した。これからも自身と向き合いながら、日々できることを継続していく。(岩国誠 / Makoto Iwakuni)

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