長崎大水害 きょう37年 次世代へ記憶継承を 東長崎で今春設立 住民団体が慰霊祭

夜の八郎川を灯籠の優しい光が照らした

 死者・行方不明者が299人に上った1982年の長崎大水害から23日で37年。災害の記憶が風化していく中、当時、八郎川が氾濫し70人以上が亡くなった長崎市東長崎地区で、住民が今春つくった2019八郎川慰霊の灯実行委員会が今月、慰霊祭を営んだ。実行委は小学生が災害について考える授業にも取り組み、次世代へ記憶を継承し防災意識の向上を目指した活動を進めている。
 7月14日午後7時、長崎市東町の八郎川沿いの公園で慰霊祭は営まれた。子どもたちはメッセージを記した手作りの灯籠を川に浮かべた。「誰も悲しまない世界」「災害がなく、平和な社会になりますように」。優しい光が水面を照らした。
 かつて市内各地で開かれていた犠牲者の追悼行事は、被災者や主催者の高齢化などを背景に次第に廃止されてきた。慰霊の灯実行委は今年4月に発足した。
 委員長の木村武夫さん(40)は新上五島町出身で、7年前に同地区に転居してきた。大水害で被災していないが、防災士の資格を持ち、一昨年の九州北部豪雨では商工会青年部で災害支援に関わった。「長崎に住む人もひとごとではないことを、大水害を知らない子どもたちに伝えたい」。そんな思いで、青少年育成協議会やPTA連合会の役員らと動きだした。
 実行委は6月、高城台、日見、橘、古賀、矢上、戸石の各小学校で自然災害について考える特別授業を初めて実施した。木村さんが講師を務め、長崎大水害の映像を見てもらいながら被害を解説。地震や洪水といった災害が起きた時、どうやって自分の身を守るのか考えてもらった。
 14日の慰霊祭には、子どもからお年寄りまで約400人が参列。黙とうの後、約600個の灯籠を流して犠牲者へ追悼の祈りをささげた。市立日見小5年の安部みやびさん(10)は「災害で亡くなる人がこれから1人でも減ってほしい。自分も常に自然災害に気をつけたい」。当時、自宅が浸水被害に遭った同市矢上町の甲斐恵美子さん(79)は「多くの人が被害を忘れつつある。記憶を風化させないために若い世代が立ち上がったことは大変意義深い」とうれしそうに語った。
 県内では20日、5段階の大雨・洪水警戒レベルの運用が5月に始まって以降、初となる警戒レベル5相当の大雨特別警報が五島、対馬に発表された。木村さんは22日、「(台風5号に伴う大雨で)新上五島町の実家近くでも崖崩れが相次いだ。故郷が心配だし、いつ大災害が起きてもおかしくないと再認識した」とし、活動にかける思いをこう語った。「来年も慰霊祭はやる。子どもは地域の宝。この子たちが大人になり、さらに下の世代に災害の記憶を伝える。そうやって災害に強い地域を作りたい」

慰霊の灯籠を八郎川に浮かべる子どもたち=7月14日、長崎市東町

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