【世界から】評価が高い豪の年金制度、その仕組みとは

政府機関の「センターリンク」。老齢年金をはじめとするさまざまな社会保障関連の窓口となる

 各国の年金制度への取り組みを評価した「マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)」に基づくランキングが、人事・組織コンサルティング会社のマーサーから毎年発表されている。調査開始から10年目となる2018年は全世界の人口の60%以上をカバーする34カ国を対象に実施され、首位オランダ、2位デンマーク、3位フィンランドという結果になった。日本は総合評価指数が改善したが、ランキングは前年度と同じ29位。オーストラリアは今回4位に後退したものの、10年間を通じて2位が3回、3位が5回ある。日本と同じく「中負担・中福祉」と言われるこの国の年金制度が、「高負担・高福祉」の北欧諸国と並んで高く評価されていることは興味深い。

▼公的年金は税方式

 オーストラリアの年金制度には特筆に値することがいくつかある。一点目は、公的年金である「老齢年金(Age Pension)」の財源を国の一般会計で賄う税方式であること。つまり、国民は年金保険料を払っていない。2点目は、ほぼすべての被雇用者を対象とした私的年金「スーパーアニュエーション(Superannuation)」が強制加入であること。3点目はスーパーアニュエーションの拠出義務が加入者本人ではなく、雇用主に課せられていることだ。

 オーストラリアの社会福祉は、個々人の自立を原則とし、老齢年金も十分な資力のない高齢者に重点化している。老後のセーフティーネットの役割を担う生活保護的な位置付けのため、「在住条件を満たし、支給開始年齢に達した」からといって、誰もが受給できるわけではないのだ。「政府として最低限の生活保障はするけれど、自分でやっていける人、快適な生活レベルを望む人は自立してね」という姿勢である。

 受給資格の判断には「ミーンズテスト」と呼ばれる、資産と所得に関する調査が用いられている。現在の満額支給の条件は、次の通りだ。まず、総資産。(1)単身者は47万3750豪ドル(日本円で約3596万円)以下。持ち家がある場合は26万3250豪ドル(同約1998万円)以下。(2)カップルの場合は合計60万5000豪ドル(同約4592万円)以下。同じく持ち家がある場合は同39万4500豪ドル(同約2994万円)以下。次に、所得。2週間ごとの所得が単身者は174豪ドル(同約1万3200円)以下、カップルは合計308豪ドル(同約2万3300円)以下。

 基準値を超える資産や所得があると減額されて「部分支給」となり、上限値に達すると給付額ゼロとなる仕組みだ。資産の上限値は、持ち家なしの単身者は78万2500豪ドル(同約5940万円)、カップル合算で107万500豪ドル(同約8126万円)。持ち家ありの単身者は57万2000豪ドル(同約4342万円)、カップル合算で86万豪ドル(同約6528万円)。所得に関しては、2週間ごとに単身者で2026豪ドル(同約15万3800円)、カップル合算で3100.40豪ドル(同約23万5300円)未満の場合は部分支給されるが、それ以上になると給付なしになる。

 給付額は消費者物価指数や生計費指数の変動と連動し、かつ単身者は男性平均賃金の27.7%、カップルは同41.8%の給付水準を満たすよう、年2回改定される。現在は、2週間ごとに単身者926.20豪ドル(同約7万310円)、カップルは合計1396.20豪ドル(同約10万5990円)となっている(各種手当含む)。

年金の「十分性」や「持続性」「健全性」を評価するマーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)ランキング上位5カ国の推移

▼確実な老後資産形成

 スーパーアニュエーション制度は、基本的に月収450豪ドル(同約3万4160円)以上の被雇用者を対象に、給与の最低9・5%に相当する金額を雇用主が負担し、本人が選択した基金に拠出することが義務付けられている。拠出率は、2025年までに段階的に12%まで引き上げられる予定だ。経済的に困窮したり、在住している外国人が永久帰国したりといった特別な場合を除き、原則中途引き出しができない。そのため、リタイア前に使い果たしてしまうことは通常ありえない。任意での追加拠出や自営業者の加入も可能で、税制優遇措置や政府補助制度により、老後に備えた資産形成の自助努力を積極的に後押ししている。

 オーストラリア人は貯金が苦手とされる。にもかかわらず、老後の生活に対する不安の声が少ないのは税金を原資として最低限の生活を保障する老齢年金があることに加え、スーパーアニュエーションを通じて、働いている間はずっと自動的に老後のための資産が積み立てられていることが大きい。仮に給与に上乗せしてスーパーアニュエーション相当額が直接支払われたとしても、収入の約1割を各自が貯金し続けることは至難の業だろう。

▼存在感を増す資産

 スーパーアニュエーションが義務化されたのは1992年。今後、加入期間の長い高齢者の割合が増えるにしたがって、老齢年金への依存度は下がっていくと見込まれる。実際に、老齢年金を満額あるいは部分的に受け取っている人の割合は、2007年時点で65歳以上の人口の75%を占めていたが、17年には66%に減った。

 07年に1兆豪ドル(同約75兆9000億円)を超えたスーパーアニュエーションの総資産額は順調に増え続けており、今年に入り、国内総生産(GDP)の1・5倍近くに相当する2・8兆豪ドル(同約212兆5600億円)に達した。政府としては、資産規模が大きくなればなるほど、財政上の負担を低減することができる。国民がより豊かな老後を実現するための重要な手段として定着したスーパーアニュエーション。その資産が安定した資金供給元として存在感を増し、金融市場を下支えすることにつながったことも制度導入の大きな副産物と言えるだろう。(シドニー在住ジャーナリスト南田登喜子=共同通信特約)

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