比田勝―博多「混乗便」就航1年 利用低迷 てこ入れ課題 対馬市が運航拡大へ福岡でPRも

博多からのビートル「混乗便」に乗って、比田勝港に着いた利用客=長崎県対馬市上対馬町

 国際線の旅客船に国内線の客も相乗りする国内初の「混乗便」が、長崎県対馬市北部の比田勝港(対馬市上対馬町)と福岡・博多港間で始まって23日で1年を迎えた。この間、JR九州高速船のジェットフォイル「ビートル」を使った混乗便が259便運航したが、国内線の乗船者数は約3600人で、搭乗率は約52%と低迷気味だ。同社は搭乗率80%以上、対馬市は60%以上を目標に掲げており、特に搭乗率が約43%と低い博多発便のてこ入れが課題となっている。

 対馬北部(上対馬町、上県町)の高齢化率は41.5%で市全体の36.4%より高いが、同地域の住民は急ぎの場合、車で2時間ほどかかる対馬南部の対馬空港(美津島町)や厳原港(厳原町)に移動し、飛行機や別のジェットフォイルを利用していた。このため、市は北部住民の利便性を高めようと、国やJR九州高速船、比田勝-博多間でフェリーを運航している九州郵船に働きかけ、混乗便を実現した。

 混乗便は、韓国・釜山港と博多港を結んでいる「ビートル」(全191席)のうち、26席を国内線用に間仕切りし、比田勝-博多区間で国内線客も乗せて運航。国内航路の国庫補助制度上、九州郵船が国内線用の席を借り受ける「用船契約」を締結し、同社名義で運航することで国が認可した。昨年度の年末年始は、帰省客対応のため国内線用を一時78席に拡大したこともある。

 JR九州高速船が昨年10月~今年1月に実施したアンケートでは、利用目的は「知人・親族訪問、帰省」(約43%)に次いで、「本土への通院」(約17%)が多く、60歳以上の利用が半数に達していた。

 心臓病治療のため、3カ月に1回、福岡市の病院に通っている上対馬町の武末英二さん(82)は「これまでは厳原港までのバス移動や待ち時間を含めると7時間かかっていたが、混乗便は2時間ほどで博多港に着く。ありがたい」と話す。一方、運航体制については「毎週同じ曜日に運航していればいいが、運休日もあり予定を立てにくい。定期化を進めれば、利用客も増えるのでは」と指摘している。

 これに対し、JR九州高速船は「混乗便は基本的に比田勝発は月、火、水、博多発は火、水、木で運航しているが、(ゴールデンウイークやお盆前後など)国際線の多客期は比田勝寄港の時間が確保できず、運休している。無理に出しても採算が合わないため難しい」としている。同社によると、ドック入りと多客期のため運休したのは1年でそれぞれ43日間、42日間だった。

 18日夕、博多発の混乗便で上県町の実家に帰省した大分県宇佐市の下原有美さん(33)は「ビートルに乗ると職場の同僚に伝えたら『韓国に行くの』と言われた。混乗便で対馬に行けることが本土では知られていない」と話す。

 対馬市の比田勝尚喜市長は「博多発便の利用促進のため、福岡のテレビ局でPR番組を流すなどして知名度向上を目指したい。全体的な搭乗率を上げていくことで、混乗便の継続と定期運航の拡大を図っていきたい」としている。

© 株式会社長崎新聞社