総務省とガチンコ ふるさと納税「大議論」の真意 キーマンに聞く(2) 泉佐野市

泉佐野市の阪上博則・成長戦略担当理事とふるさと納税の部署の皆さん

 魅力的な返礼品をそろえて破竹の勢いで寄付額を伸ばしてきた泉佐野市。そこ に待ったを掛けたのが総務省の規制だった。両者の対立が深まる中、同市の阪上 博則成長戦略担当理事(47)が打ち出したのが、寄付額に応じてAmazonギフト 券を上乗せする「100億円還元閉店キャンペーン」だった。賛否両論の議論を巻き起こしたキャンペーンの真意、除外された自治体(地方公共団体)として新制度への思いを聞いた。(共同通信=大阪社会部・助川尭史、真下周)

 ▽寄付者動かすインパクト

 ―返礼品に加え、最大で寄付額20%分のAmazonギフト券がもらえるキャンペーンを今年2月に始めた

 実を言えば、本当はやりたくなかったんです。金券は汗をかかずに簡単に寄付 を集めてしまうから。でもふるさと納税に協力してくれていた市内約6割の事業 者が地場産品以外を取り扱う中、総務省の言うように見直していたら仕事がなく
なってしまう。実際につぶれかけた事業者もいました。われわれはそういった方
を守る責任があります。多くの在庫を抱えている中で、一定量の受注を確保しな
ければいけないですが、確定申告が終わった後の1~3月は例年、寄付額が落ち
込む。となると、どうしても寄付者を動かすインパクトが必要だったんですね。悪いことをしている認識は全くありませんでした。

 ―4月にはAmazonギフト券が寄付金額の30%分もらえる「300億円限 定キャンペーン」を放った。新制度を目前に、禁断の「金券」で泉佐野市が全国の寄付額を〝がめた〟印象になった

 がめた、と取られても仕方ないでしょうね。でも結果的にこうなったのは総務省に原因がある。総務省が地場産品規制にまで踏み込まなかったら、うちもあそこまでやらなかったですから。悪い自治体だと言われ続け、反発すればするほど、寄付が入ってくる状況になりましたね。そこまでは想定していませんでした。

 ―「問題体感」コースと称して、返礼率(還元率)を事実上5~7割にする内容だった

 ぼくらは自分たちの考えや思いを、メディアを通じてしっかり発信してきたつ
もりでした。ふるさと納税をやっている方、とくに大阪に住んでいる人はほとん
どが泉佐野市の味方で、応援してくれた。でもふるさと納税をやっていない人に 批判的な意見が多かった。それで発信不足を反省し、市直営の専用サイトの「さ
のちょく」を使って、問題提起型キャンペーンをやれば面白いのでは、と考えた んです。ただ残念ながら、寄付したことがある人はまだ2割しかいないので、世
論全体になると泉佐野市に批判的になりましたね。

 ―寄付額の一部がAmazonに流れることについて懸念はなかったのか

 それは言われると正直気分の良い感じでないです。ちょっとやりすぎちゃうん
か、という声もいただきました。ただ、「さのちょく」を使うことで経費を削減
して、その分浮いたお金を充てたんですね。多くの自治体がポータルサイトに寄 付額の1割程度の手数料を払う中、Amazonギフト券なら寄付者にも還元で
きる。返礼品をたくさん出せて地元の事業者が救われて、なおかつ利用者の方に
喜んでもらえる方がよいと思いました。

 ―直営サイトを運営するメリットは?

 やっぱり手数料を省けるから。あとページのつくりであるとか、見せ方をこち
らがカスタマイズ(必要に応じて変更)できる。「ふるさとチョイス」や「さと ふる」などのポータルサイトに頼る場合は、どうしてもテンプレート(ひな形)
の活用になり、限界があります。自治体が直営サイトを持っているのは、うちの
他にも、宮崎・都城市とか長崎・平戸市がありますね。それでも直営サイトのシェアは10%程度ですが。

 ▽寄付者のニーズをつかんだ

 ―結果として2018年度の寄付額は過去最多の約497億円を集めた

 手前みそですけど、泉佐野が(寄付額で)トップを取れたのは寄付者のニーズ
をしっかりつかんだからです。ふるさと納税は競争を前提としてパイを広げていく制度なので、自治体もそのつもりでやっていかないといけない。僕 も始めた当初は役所内でいろんな担当を兼務してたんで、毎日夜中まで残業しました。取られたら取り返してやるという気合いと根性が必要やと思います。ことふるさと納税に関しては。

 ―ふるさと納税に熱心な自治体とそうでない自治体がある

 寄付額で上位に来る自治体はだいたい20~30ぐらいで、その状況は変わら
ないですね。力を入れない自治体は、国の補助金交付が多い自治体が多かったり します。要はお金がある。あとはふるさと納税はやっているけど、ノウハウがな
いケースです。勉強不足の自治体も多いですが、泉佐野にどうやって集めている かノウハウを聞いてくる自治体には、やはり一生懸命やろうという担当者がいる。寄付額の上位自治体には必ずそれなりの担当者がいます。それから、担当者にやる気があっても、周囲の協力態勢がなければ寄付を集めるのは難しいんですわ。僕らだって好きにやらせてくれる環境を整えてくれた市長や、苦しい時代を知っている議会や市民の協力が大きかったのもありますね。

 ―財政的に厳しくても、マンパワーがなく制度を活用できない自治体もある

 正直そこは一番気になってましてね。構造的な問題として確かにある。一生懸
命やりたくてもできない、という…。こんな話もあります。ある小さな自治体では昨年度、10億円近く集めた。若い担当者のアイデアや頑張りによるものでし
た。でも昨年12月末で返礼品を止めてしまった。首長の「もうやらなくていい」という指示が理由です。寄付を集めすぎても使い道が分からない、と。寄付額が大きくなると、「ワンストップ特例申請」などの作業も膨大となり、何十人の職員では抱えきれない。役場全体の協力態勢も得らなかったわけです。目玉の返礼品を失い、寄付額は一気に減ってしまいました。

 ―他の自治体のふるさと納税の業務を手伝う新会社の設立を今年6月に発表したが

 こういう自治体を支援するためです。新会社が、ふるさと納税で発生するコー
ルセンターや配送管理、寄付金受領書の発行発送といった大量業務を業務委託で 請け負います。なぜ多くの寄付者がポータルサイトを使うかというと、たくさん
の自治体の返礼品を比較検討したいから。でも自治体としては手数料のかからな い直営サイトに誘導したい。その問題をクリアするために昨年末に自治体の直営 サイトを連携させるポータルサイト「ふるちょく」を作りました。サイトにそれ ぞれの返礼品を掲載して、寄付先を選ぶと各市町が独自に運営している直営サイ
トにつながる仕組み。自治体に直接入るお金が多くなり、手数料を払わなくてい
いので、返礼品の調達経費の他、宣伝費、送料などを含めた総経費を年間寄付額の50%以下にする総務省の規制もクリアしやすくなります。参加自治体を増やして、いずれはポータルサイトに取って代わる物にしていきたいんです。

300億円キャンペーン

 ▽泉佐野のノウハウ提供したい

 ―泉佐野市も元々はポータルサイトを使っていた?

 そうです。ポータルサイトは寄付集めの最強のツール。うちぐらいの知名度になると正直、必要なくなります。ただ他の自治体ではそうはいかない。活用は必要です。でも実際には外部の業者やポータルサイトに一括委託、つまり丸投げしてしまっている自治体が多い。寄付者に(「この自治体にしよう」と)選んでもらうためには、返礼品の写真やタイトルの付け方が重要ですよね。全国の市町村がライバルである中で、その町のことをよく知っている人が積極的に関わらないと、その自治体は絶対に埋没します。なんせ1800近い団体がありますから。全国でもすごく有名なコンテンツがあれば、出すだけで集まりますよ。でもそうでなければ、今ある勢力図の中で勝ち上がっていかないといけません。同じ肉で1万円の寄付で500グラムを返礼品にする、となったら、検索してずらっと出てくる中でクリックしてもらわないといけない。でも自治体の担当者の中には、自分の町が出している品物がどういう風に掲載されているかすら見ていない人もいるんです。新会社では何もかも任せてしまうのではなく、ちゃんと担当者の意思で動かしてほしい。ただ、そもそもどうしたら寄付が集まるのか分かっていない自治体も多いと思うので、これまで培った泉佐野のノウハウも提供したいと考えています。

 ―だが新制度下では、泉佐野が取ってきた方法でやることは難しくなるのでは

 寄付者のニーズを把握すれば、新制度の下でも寄付を集めるのは可能ですよ。 泉佐野では今どんな商品が人気なのかを事業者と一緒に考えて、常に返礼品を入
れ替えていました。種類を増やす時も、ひとつのカテゴリーで10種類くらい出 して、泉佐野市の「さのちょく」の中で選んでもらう環境をつくっていました。 品切れなのに3、4日も放置することはうちではありえない。泉佐野というと、 今やどうしても(最終盤に使った)Amazonギフト券や還元率の高さばかりが注目されますが、こうやって手探りでやってきた地道な作業が功を奏した面の方が大きいんです。

 ―4自治体が抜けると、その他大勢の自治体に寄付が行き、全体がくまなく潤
うかもしれない

 今後も市場規模は縮小することはなく、ほぼ変わらないまま推移するでしょうね。ただうちを含めた4自治体がいなくなったことで、寄付がどこにいくかと言えば、今現在、寄付額の上位に並ぶ自治体にその分が更に行くだけで、全体が潤うことはないと思いますよ。

 ―高額な返礼品への依存から脱却し、田植えや漁業体験などの「体験型」の返
礼品や、新事業への寄付を集めるクラウドファンディング型のふるさと納税も広
がっている

 そういうことは、これまでもやってきています。だけどキラーコンテンツには絶対ならない。うちも実は以前から関空クルーズとか、滝修行とかやってて、パイオニアでもあるんですよ。でもそれでは寄付は集まらない。返礼品制度が無くならない限り、肉や米など魅力ある品をそろえる自治体が寄付を集める状況は変わりません。

 ―そもそも返礼品を目的にした寄付自体は批判もある

 返礼品が切り口になることで、物が購入されたり、消費されたりします。例え
ば北海道・上士幌町のジェラート。今はすごく有名ですが、以前は全国から見向
きもされていなかった。それを掘り起こしてくれるのがふるさと納税なんですよ。地方にとってすごい経済効果です。現状、こんな有効な消費喚起策はないと思いますね。新制度になって還元率は30%に抑えられ、自治体が返礼品を購入する額は少なくなります。その分、消費は落ち込む。偉そうなことは言えないけど、われわれは全国の生産者や企業の方に喜んでもらっていた自負があります。泉佐野市が対象自治体から外れれば、何十億円という消費がなくなるんです。総務省はそこが分かっていないですね。

 ―全国最多の寄付金の行方は。職員の待遇向上や市の借金返済には使わないのか

 寄付金そのものが市の懐に入るわけじゃないんですよ。経費で6~7割持って
行かれるので。ふるさと納税はあくまでも他の自治体に比べて立ち遅れてきたと
ころを追いつくためのお金で、カットされている僕らの給料は最後だと思っています。そりゃ給料が戻ってきてくれたら嬉しいんですけど。借金もまだあるけど、直接寄付を返済に充てることはしません。使い道を決めて寄付を集めているので、今回の寄付金もこれまで同様、小中学校の施設の充実などに使っていく予定です。町の発展のためにも子育てしやすい環境を整えてく資金にしていきたいですね。

 ▽われわれはヒールではない

 ―今後のふるさと納税をどうしていくか

 われわれは決してヒールではないです。間違ったことは間違ったと正直に言っ
ている唯一の自治体だと思っていますから。総務省の第三者機関「国地方係争処
理委員会」に不服を申し立てているのもその一環です。還元率の30%も、地場
産品かどうかも、はっきり言って自治体の自己申告ベースです。これでは正直者が馬鹿を見ます。

 ―今回の騒動で泉佐野市の知名度は上がったが、町のPRにはつながったか

 今も市のホームページには1日千通くらい応援メッセージが来ています。特産
の泉州タオルも徐々に知名度が伸びていって、首都圏でも認知されるようになりました。除外が取り消されれば新制度に参加するつもりはありますが、今後、ど
うやって寄付を集めていくかは未定ですね。返礼品のラインアップも変えなきゃいけないだろうし、その辺は調整しなければいけない。ただ他の自治体にはないものをわれわれは持っていると思うので、その他大勢にはならないようには頑張っていきたいです。

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