エボラ出血熱で「緊急事態宣言」 地域の医療施設や住民との連携が必須【情報まとめ】

イトゥリ州ブニアの一時受け入れ施設で防護服を着る医療スタッフ © Pablo Garrigos/MSF

イトゥリ州ブニアの一時受け入れ施設で防護服を着る医療スタッフ © Pablo Garrigos/MSF

コンゴ民主共和国(以下コンゴ)東部でエボラ出血熱の流行が宣言されてから1年近くが経過した。現地では今も流行を抑えこめずに、1600人以上がエボラに関連して亡くなったと報じられている。世界保健機関(WHO)は2019年7月18日、この状況が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」にあたることを宣言。国境なき医師団(MSF)は、流行地域の医療機関や住民と連携した一層の対応強化を支援し、活動を続けている。 

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これまでの数字(2019年7月16日現在、コンゴ保健省データ)

流行宣言以来の症例数合計:2522件 (確定症例2428件、ほぼ確実例94件※)
死亡した人数:1698人
治癒した患者合計:717人
ワクチン接種を受けた人の合計:16万4757人

※ 「ほぼ確実」は、エボラ確定例と関連があったが専門施設外で死亡した例で、埋葬前に検査できなかった人。 

新規症例の発生は止まらず

感染疑いのある患者の様子を見るMSFスタッフ © Pablo Garrigos/MSF

感染疑いのある患者の様子を見るMSFスタッフ © Pablo Garrigos/MSF

コンゴでエボラの流行宣言が出された2018年8月から、2019年3月までの8ヵ月に、現地では1000件以上の症例(確定例とほぼ確実例の合計)が報告された。その後2019年4月~6月、3ヵ月という短期間で1000件の新規症例が報告され、症例数は倍増した。そして6月初旬以来、新規症例数の週次集計は75~100件と高いまま推移している。

7月初旬、北キブ州とイトゥリ州の47保健区域のうち25の区域で感染を確認している。このうち22の区域では直近の21日間で新規症例が報告されているため、現在も感染が拡大しているとみられる。アリワラとゴマは新たに感染が確認された区域だ。以前「ホットスポット」とされていたブテンボ、カトゥワ・マンディマ保健区域では新規症例が減少しているものの、ベニでは増えているほか、マバラコでも発生数が高いままだ。 

北キブ州の診療所で地域住民にエボラについて話すスタッフ © Alexis Huguet

北キブ州の診療所で地域住民にエボラについて話すスタッフ © Alexis Huguet

1年前の流行開始以来、新たに発見された症例のうち、治療を受け始めたり、適切な治療を受けられずに亡くなったりする前にエボラ感染者との接触が特定された人は、半数程度にすぎない。これは、エボラ患者(確定例とほぼ確実)と接触した人を特定して対応するのが非常に難しいためだ。その結果、エボラとみられる症状が出た人に、早急に適切なケアを受けさせて感染拡大リスクを減らすことや、また特定された接触者へのワクチン接種も十分にできていない。

現地ではエボラ対応に従事するスタッフへの暴力を伴う攻撃が続いており、活動に影響が出ている。5月25日には、感染予防活動をしていた医療従事者1人がヴサヒロで殺害された。6月25日には、ベニで、エボラ対応チームの運転手が怒った群集に石を投げつけられ、車に火をつけられる事件が起きた。そして7月13日にはベニで2人の医療従事者が何者かに殺害されたが、動機は明らかになっていない。こうした状況により、ワクチン接種や追跡調査、地域住民への健康教育、安全な埋葬など、流行を抑えこむために必要な活動が阻まれるだけでなく、体調が悪くなったりエボラに似た症状が出たりした人が、治療センターに来なくなってしまう。 

MSFの活動状況:最新アップデート(2019年7月17日現在)

ブニアの一時受け入れ施設 © Pablo Garrigos/MSF

ブニアの一時受け入れ施設 © Pablo Garrigos/MSF

エボラ流行下におけるMSFの最優先課題は、地域住民に寄り添ってそのニーズを聞き取り、エボラ治療を含め、患者が必要としているさまざまな医療を受けられるように徹底していくことである。これを実現するため、MSFは現地の医療機関を支援し、エボラ対応を既存の医療体制に組み込んで、地域住民がこれまでに利用してきた身近な医療施設で診察や医療を受けられるようにしている。

MSFは、襲撃を受けて中断していたエボラ治療センターでの治療活動も再開した。イトゥリ州ブニアで、保健省と連携して治療を行うほか、ゴマでエボラ治療センターを建設し、間もなく完成する。ただ、MSFの活動の中心は既存の医療機関の支援だ。エボラ感染が疑われる患者へのケア、トリアージ※と感染予防・制御の強化、医療機関内に一時受入施設を設置、さらに地域住民と連携する活動も行っている。また、エボラ流行地の外で運営しているプロジェクトでも、疫学的サーベイランス(調査・監視)を強化している。

※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること。

2019年7月現在、MSFは北キブ州とイトゥリ州で計9つのプロジェクトを運営し、530人以上のスタッフが活動。また、745人の保健省職員に適切な給与が払われるよう、現地保健省を支援している。 

北キブ州ゴマ

MSFは、ゴマ州立病院内に設けたエボラ治療センターを支援。保健省と連携して、疫学的調査・監視活動で特定できた確定例の医療ケアを担当している。2019年2月以来、このセンターには500人の患者が入院した。疫学的調査・監視活動と疑い例の適切な隔離により、緊急対応体制を支援している。

ゴマとその周辺では健康教育と地域連携活動を展開。ニィラゴンゴではベッド数72床のエボラ治療センターを建設中で、8月に完成を予定している。さらに、周辺にある2ヵ所の医療機関で無償の一次医療を担い、住民が、現地でよく見られるマラリアや尿路感染症、呼吸器感染、下痢などの治療を受けられるよう支援するほか、正常分娩を含めた産科診療も支援している。 

イトゥリ州ブニア、コマンダ、マンバサ

ブニアでは総合病院を含む11医療機関を支援。ブニアのエボラ治療センターはベッド数34床で運営し、2019年6月は111人が入院、このうち2人はエボラ確定例だった。コマンダでは7診療所を7月末までサポートしていく。マンバサでは総合病院と12ヵ所の診療所を支援している。医療スタッフを対象にしたバイオセキュリティー訓練、地域での感染予防・制御の支援をしている。 

イトゥリ州アリワラ

2019年6月29日に確定例が報告されたため、MSFチームが現地に入った。封じ込めに向けた健康療育、地域との連携、感染予防・制御と、現地NGOを対象にした症例管理の訓練を行うほか、一時受け入れ施設の建設を支援する。 

イトゥリ州ビヤカト

診療所と周辺地域での感染予防・制御と給排水・衛生活動を行い、清潔な水が手に入りやすいようにしている。また、ベッド数5床の小規模な一時受け入れ施設を2ヵ所、保健省と連携して運営している。

4つの診療所で無償の一次医療を担い、住民の医療ニーズに応えているほか、0~15歳の小児を対象にした二次医療、移動診療による基礎医療と感染予防・制御の支援も行っている。 

北キブ州ルベロ、カイナ、ベニ

現地病院と診療所でトリアージ、一時受け入れ施設の設置と運営、感染予防・制御と、エボラ検査の結果を待つ感染疑い患者への医療ケア、地域への健康教育を実施している。また、エボラ以外の疾患を対象とした救急診療と外来・入院などの医療サービスも支援。ルベロでは総合病院と5つの診療所、カイナの総合病院と、ベニの5つの診療所で支援を続けている。 

今後の課題:地域の医療施設と住民をつなぐ対応がカギ

MSFが支援するブニアの診療所で、診察を待つ地域の女性たち © John Wessels

MSFが支援するブニアの診療所で、診察を待つ地域の女性たち © John Wessels

エボラの検査、診断、入院治療を受けることなくコミュニティー内で亡くなった人の多さや、新たな確定例の多くが感染確定患者と接触したことが特定されていないなど、疫学的に状況を把握できていないことは非常に憂慮すべきである。適切に隔離されないままエボラ患者が地域にとどまる期間が長ければ長いほど、ウイルスを他人にうつす危険性も高まる。コミュニティーで亡くなる人数は40%ほどと報告されており、これほど多いのは流行を抑えこめていないからだ。

流行の抑え込みには、エボラ対応に従事するスタッフと感染地域の住民との間に信頼関係を築くことが鍵となる。関係者が連携し、患者と住民を中心にした対応をとっていく必要がある。地域住民の声に耳を傾け、そのニーズを優先事項とし、住民が自身の健康管理ができるようにしながら、エボラ対応に全面的に協力してもらわなくてはならない。地域の中で活動するだけでなく、地域住民と手を組んで対応していかなくてはならない。

MSFは、エボラ対応を現地の医療体制に組み込むことで、地域住民がより身近な場所で診断や治療を受けることができ、流行の最中にも医療活動が機能し続けると信じている。感染の疑いがある患者を早期に発見できるだけでなく、地域の人びとが信頼している医療機関で検査を行えば、より多くの人がエボラに似た症状が出たときに受診するだろう。結果として、人びとがエボラ治療を受け入れやすくなり、自宅で亡くなる人の数も減らせる。

ゴマでエボラの陽性例が出たことは、引き続き警戒していかなければならない。MSFはゴマですでに7ヵ月以上、エボラ緊急対応体制を敷いており、疫学的調査・監視体制の強化と、適切に症例を受け入れる態勢を徹底しているが、対応を拡充していく必要がある。今はエボラが流行していない地域や国でも体制を強化していくには、資金や人材だけでなく、コンゴと近隣諸国で今回の緊急事態宣言をどう適用し、どう調整するかにかかっている。戦略を見直し、患者と地域住民を組み込んだ戦略策定を実施していくことが重要となる。 

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