【津川哲夫の私的F1メカチェック】ホイール内側に見える、最強メルセデスW10の細かなクーリングの痕跡

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 今シーズンのメルセデスの連続優勝記録はオーストリアGPのレッドブル・ホンダの優勝に阻止されてしまったが、続くイギリスGPをルイス・ハミルトンが征して『メルセデいまだ衰えず!』を強力にアピールしてメルセデスW10の万能性を証明してみせた。もちろん、現実には万能なマシンなどはあり得ず、オーストリアGPでの高温・高地ではオーバーヒートのウイークポイントが垣間みられたことは忘れてはならない。

 しかし、そのウイークポイントを踏まえても、メルセデスの徹底した完璧主義はあらゆる弱みを急速、かつ繊細に改修して見せる。実際にはメルセデスW10は性能的には完成域に達しつつあり、それ以上の大幅なレベルアップは難しい。それでも、だからこそW10はわずかな性能向上の可能性が残る細部に至まで、繊細な開発を続けているのだ。

 昨年、メルセデスのマシンはブレーキのオーバーヒートに悩まされた。その問題は今シーズン、改善はしたものの、実は根本的な課題はいまだに残っていた。

 昨年まで、メルセデスのマシンはスルーアクスルでアクスルを空洞化してここを抜ける空気流を使ってベアリング周りの冷却をしていたが、今シーズンはこれが禁止となった。同様に、昨年にテストした隙間スペーサーも今シーズンの規則で禁止されてしまった。

 規則の改定は全車に当てはまるが、メルセデスは特にブレーキ、アクスルベアリング、ホイール等のクーリングが今年、難しくなっているのだ。そこで写真のメルセデスのリヤーホイール内側を見てほしい。

 この部分を解説すると、センター部分のリングには長いドライブペグと短いロケーターペグが計8本埋められていて、これがアクスル側のフランジに空けられた穴に入り込み、回転トルクをホイールに伝えることになる。興味深いのはこのペグを囲むリングの表面に無数の小さな穴が空いていること。そして、その背面のホイール内側の接点には中心に向かって細かな溝が無数に刻まれているのがわかる。

 つまり、このリングはスペーサーであり、アクスルフランジに搭載されているディスクベルからの熱をこのスペーサーが受け、無数の穴を利用してホイール側の溝とスペーサー面にできる空間を通して排出する、言わば空冷フィンの役割をしている。

 さらにホイールスポークの中心側の根っこの部分はY字型に造られ、空間をつくっているが、これも冷却効率のためだろう。さらにリム面には細かくぶつぶつ(ドット)が刻まれていて、ホイールの表面積を増やして放熱効率を上げている。チャンピオンカーの実に繊細な努力が垣間見れる。