東京オリンピックまで1年、関連銘柄を今買っても遅くない?

東京オリンピック開催まで、本日でちょうど1年となりました。これまでの高値を追う動きが一段落し、東京オリンピック関連銘柄への投資を検討される方も多いかもしれません。

しかし、安易に手を出してしまうと、思わぬケガをしてしまう可能性があります。どんなところに注意が必要なのでしょうか。


警備系のパフォーマンスが良好

オリンピック開催地が東京と決まった2013年9月頃から、東京オリンピック関連銘柄を探す動きが始まりました。その動きの中で、東京オリンピックはスポーツ用品メーカーだけでなく、広告代理店、建設業、警備業界など、さまざまな分野においてポジティブな影響を与えると期待されていることがわかりました。

たとえば、オリンピックの運営やスポンサーの広告に関与する広告代理店の電通(証券コード:4324)、警備共同企業体を設立し、東京オリンピック開催期間中のセキュリティを受託する警備会社の綜合警備保障(2331)、オリンピック選手が使用するユニフォームや器具を取り扱うスポーツ用品メーカーのミズノ(8022)、新国立競技場等のオリンピック関連施設の建設に携わる大成建設(1801)といった銘柄が、さまざまなウェブサイトや証券会社のホームページなどで東京オリンピック関連銘柄として取り上げられています。

そこで、東京オリンピック決定直前の2013年8月におけるそれぞれの銘柄の終値を100として、今月までのパフォーマンスをTOPIX(東証株価指数)と比較しました。

上表を見ると、2013年10月時点ではミズノを除く3銘柄がTOPIXよりも高い上昇率を示していました。この時点では、大成建設をはじめとした建設業界が最も人気のある銘柄でした。しかし、2019年7月時点では、大成建設と綜合警備保障がTOPIXよりも高い上昇率であったのに対し、電通とミズノはTOPIXの上昇率を下回りました。

株価の変動要因すべてが東京オリンピックによるものではないことは確かですが、業界最大手のセコム(9735)は同期間に1.53倍となり、セントラル警備保障(9740)は5倍以上の値上がりとなるなど、警備サービス業界が全体的に高い上昇率を示す傾向となりました。

スポーツ用品メーカー業界は、アシックス(7936)の0.67倍と値下がりするメーカーがある反面、ヨネックス(7906)のように、中国進出などによって4.73倍に値上がりするメーカーもありました。

ここまでご覧になってお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、東京オリンピック関連銘柄の投資が良かったか悪かったかは、すでに答え合わせの段階に入っているといっても過言ではない状況です。つまり、現在、東京オリンピック関連とされているほとんどの銘柄は、その影響による業績変動が株価に「織り込まれている」と考えられます。

誕生日サプライズを例に考える

皆さんはニュースや雑誌の記事などで、「織り込み」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。「日本銀行の追加緩和は、すでにドル円相場へ織り込まれている」といった文脈でよく使われます。

「織り込み」とは、簡単にいうと「心の準備」です。たとえば、あなたの誕生日に周りの友人がそわそわしていたり、プレゼントの箱が友人のカバンからチラリと見えていたりすると、これからお祝いされるという予想がついてしまうのではないでしょうか。このような状況では、お祝いされたとしても驚きは半減してしまうでしょう。

実は、株価も市場参加者の心の準備ができていない場合に大きく変動します。突然明るみに出た企業の不祥事や事件、買収の発表などが典型的な例となります。

反対に、定期的な情報開示などにより市場参加者の心の準備ができている経営計画の達成度合いなどについては、正確な数値が発表される前から冷静に投資判断をする時間があり、株価は今後発表される情報を織り込みながら、比較的穏やかな変動になる傾向があります。

東京オリンピックのように数年前からその実施が明らかなものについては、あらかた織り込み済みである可能性が高いでしょう。誕生日の事例でいえば、友人から「あなたのサプライズを行う計画をずっと前から練っている」というネタバラシをされるようなものです。

「噂で買って、事実で売れ」

このように、織り込み済みの事象については、その内容が実現すると本来の方向感とは逆に相場が動く傾向があります。この傾向は「噂で買って、事実で売れ」という投資格言としても有名です(海外では buy the rumor, sell the fact と表現されます)。ポジティブな内容の噂が出た段階で株を買い、それが事実になった時に売るべきだという意味の格言です。

この格言に則ると、東京オリンピックまであと1年という状況では、たくさんの人がすでに東京オリンピック関連銘柄を保有しており、開催に合わせて売る準備に入っているかもしれないことが予想されます。

そればかりか、この格言通りに行動する投資家がいることを逆手にとり、オリンピックが開催される前に株式を売却する投資家も出てくる可能性もあるでしょう。したがって、東京オリンピック関連として紹介されている銘柄を今から買うということは、このような行動をとる投資家と逆行する行動といえ、比較的リスクが高いと思われます。

このように考えると、もはや東京オリンピックを投資機会とすべきではないとも思われます。しかし、東京オリンピック銘柄として認識されていない銘柄が突如、東京オリンピック銘柄として認識されることもあります。このようなタイミングを狙って、その銘柄に投資するという方法もあります。

オリンピックを投資機会にするには?

この方法は、今すぐに何かの銘柄を買ったり売ったりするというわけでもありません。あるシナリオが実現した時に素早く行動できるように“待つ”のです。

たとえば、翌年の春先に東京オリンピック開催期間中の気温が非常に高いことが予想される場合は、熱中症に有効な商品を販売する企業が突然、東京オリンピック関連銘柄として認識されるかもしれません。

また、予想以上の外国人観光客が開催期間中に訪れることとなった場合、電車だけでキャパシティを賄えないとなれば、バスやタクシーなどの交通機関にも予想外の波及効果がもたらされる可能性があります。

このように、「あるシナリオが実現したら、どの銘柄にポジティブ・ネガティブなことが起きるか」をシミュレーションしながら備えることで、市場の織り込みが始まる前に取引できる可能性が高まるでしょう。

ただし、このような投資のやり方はやや短期的なものになりがちです。長期投資志向で投資を行いたい場合は、今の段階から東京オリンピックが終わった後の日本や世界の情勢を見据えて投資機会を探っていくことをおすすめします。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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