「英国版トランプ」の首相就任は日本株相場をどう動かす?

「この国と自らの決断を過小評価すべきではない」。英国のボリス・ジョンソン新首相は「ダウニング街(首相官邸)」での演説でこう吠えました。

欧州連合(EU)からの離脱、いわゆる「ブレグジット」に揺れる英国に、新しいリーダーが誕生しました。55歳のジョンソン首相です。

7月23日に行われた与党・保守党の約15万9,000人の党員による選挙で66%の支持を集めてジェレミー・ハント外相を破り、翌24日にテリーザ・メイ前首相の後継者となりました。この新首相誕生は、日本の金融市場にどのような影響を及ぼしそうなのでしょうか。


EU離脱派の旗振り役的存在

ジョンソン氏は米ニューヨークで生まれ、英国の日刊紙「ザ・デイリー・テレグラフ」の記者などを経て政界へ転身。ロンドン市長を務めたときには2012年の五輪・パラリンピックを成功させ、市民から「ボリス」とファーストネームで呼ばれるなど、人気の高い政治家です。

その一方で、「英国版トランプ」などと称されることもあります。ボサボサの金髪がトレードマークであるうえ、型破りな言動が物議を醸すことが少なくないからです。

2016年に行われたブレグジットの是非を問う国民投票では、当時の英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首とともに離脱派の旗振り役的な存在でした。その時、問題になったのが、離脱派のキャンペーンで掲げた耳当たりのいい公約です。

「離脱すれば、英国がEUに拠出している週3億5,000万ポンドを無料医療サービス(NHS)へ回すことができる」というのがその内容。この公約がロンドンバスの側面にも掲げられたことで、多くの国民が離脱へ投票するきっかけになったともいわれています。

しかし、キャンペーン中から「この額は膨らませすぎ」との疑問の声が少なくありませんでした。結局、ファラージ氏が投票後になって間違いを事実上認める発言をしたことで、残留を支持していた人たちからの批判が高まりました。

そもそも、ジョンソン首相のスタンスをめぐっては「離脱に賛成ではなかったが、(国民投票の実施に踏み切った)キャメロン首相(当時)と一線を画すため、離脱派へ宗旨変えした」との指摘があります。「上昇志向の強さゆえの路線転換」ということでしょうか。

ブレグジットの行方はどうなる?

昨年には、デイリー・テレグラフ紙へ投稿したジョンソン首相のコラムが地元のメディアを賑わせました。イスラム教徒の女性が着用する、ほぼ全身を黒いヴェールで覆ったブルカやニカブを「郵便ポスト」「銀行強盗のよう」と表現。保守党内からも謝罪を求める声が相次ぎました。

こうした人種差別的な思想をEUの幹部らが快く思っていないことは想像にかたくありません。「うそつき」「ペテン師」「女性蔑視」……。英国の新首相誕生を報じる欧州のメディアの紙面にはこうした厳しい言葉が並んでいます。

ドイツのメディアは「多くの人に“日和見主義”といわれている人物が、現在の状況下で本当に首相としてふさわしいのか」という専門家のコメントを紹介しています。

ジョンソン首相は予定通り10月末でEUから離脱することを明言しました。「合意なき離脱」となれば、それはEUに責任があるという認識です。

英国とEUとの話し合いで最大の焦点になった、英国領北アイルランドとアイルランドの間に物理的な壁が構築されるのを防ぐための安全策、「バックストップ」条項には反対の立場。同条項は両者が昨年合意したブレグジット協定案に盛り込まれましたが、首相はEUにその見直しを求める考えとみられます。

話し合いが不調に終われば、首相は「合意なき離脱」も辞さない意向です。しかし、EU側は修正に応じない構えを崩していません。ブレグジットの混乱は英国側の迷走が招いたもの。離脱が2度にわたって延期になったのも英国議会でEUとの協定案の承認が得られず、英国がEUに要請した経緯があります。

日本では円高・株安の可能性も

それだけに、「合意なき離脱になったらEUの責任」との主張は両者の溝を深めかねません。欧州委員会のミシェル・バルニエ首席交渉官はツイッターで「離脱協定案の批准を促し、秩序あるブレグジットを成し遂げるために、ジョンソン首相との建設的な作業を楽しみにしている」などと牽制しました。

このため、世界の金融市場にも「ハードブレグジット」への警戒感が広がっています。英国の通貨ポンドは足元でやや底堅い動きとなっていますが、これはジョンソン新首相誕生を織り込んでいたためとみられます。市場関係者の多くは買い一巡後、ポンドが再び値下がりするシナリオを想定しています。

「合意なき離脱」となれば、株式相場の波乱も決して否定はできません。「安全通貨」と位置付けられている日本円へ資金が流入。円高進行に伴って日本株が売られる展開も考えられます。

日本株相場は7月も閑散状態。東証1部の売買代金が活況かどうかの目安となる2兆円を超えたのは、2営業日にとどります。薄商いの中、英国の新リーダーの言動によって乱高下する可能性には留意したいところです。

<写真:ロイター/アフロ>

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