未曾有の災害を乗り越えて〜町長が語る坂町が取り組むこれからの防災

広島県安芸郡坂町は、広島東部に位置する人口13,000人余りの自然豊かな町。美しい海と山に囲まれたこの町を、2018年7月6日、未曾有の豪雨が襲った。あの西日本豪雨災害から1年。吉田隆行町長に当時の様子や現在取り組んでいる復興計画の進捗についてなど、話を伺った。

ボランティアの皆さんに感謝の気持ちを伝えたい

― 7月6日当時の状況から教えていただけますか?

私は7月4日から、東京で開かれる会議に参加するために出張しておりました。広島では5日から激しい雨が降り大雨警報が発令されていましたが、6日になって危険な状況であるとの知らせが入り、急遽帰広しました。その時はまだ交通機関は動いていたのでなんとか帰れました。それ以降はずっと役場に缶詰状態でした。

「私自身、人生で経験したことのない大変な災害だった」と当時を振り返る吉田町長

 

― 災害直後から民間のボランティアをはじめ、県外の市町村職員の応援も多数あったと聞いています。

はい、全国から延べ26,000人を超えるボランティアの方に来ていただきました。
また広島県が総務省に応援依頼を要請し、政令市長会からも、また各市町村の職員もたくさん応援に駆けつけてくれました。
罹災証明書を発行するための調査業務では、川崎市、千葉市などから27名の職員が坂町役場で対応してくれました。他にも、北九州市からは土地や税金に係る業務の手伝いなど、100名しかいない坂町役場の職員だけでは到底裁ききれない業務を手伝っていただき、本当に助かりました。これをきっかけに川崎市とは今も友好的な関係が続いています。
様々な方面で、本当にたくさんの方々に助けていただき、これにはただただ感謝しております。

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今年も梅雨入り前の6月7日に、「警戒レベル」を用いた避難情報の発令が開始されて以降、初めてレベル4が発令された。その後も広島では、6月14日、26日、29日と大雨警報が発令される状況が続いた。
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SNSでも避難情報を発信

― 坂町では6月に大雨が降った際にも早めに自主避難所を開設して、防災無線以外にFacebook等のSNSでも情報発信されています。町民の反応や利用状況はいかがでしょうか?

SNSを普段からうまく活用できている町民には、避難情報も迅速に伝わっているようですが、高齢者などSNSが使えない方はやはり防災無線が頼りです。昨年の災害時には屋外用の防災行政無線であったため、大雨が降っている状態では聞こえなかったとのご意見をいただきました。
そこで、2019年5月上旬から、すべての家庭を対象に屋内用戸別受信機を無償貸与しています(6月現在1600軒余り)。
6月に避難指示を呼びかけた際には「よく聞こえたので情報がはっきりわかって、避難がスムーズにできた」との声が寄せられたと聞いています。

 

復興状況について

2018 年11月に撮影した天地川付近

 

― 災害から1年、坂町の復旧・復興状況を教えていただけますか?

坂町では、48件以上の土砂災害が発生し、家屋全壊が292軒、半壊が983軒と、甚大な被害を受けました。18名(災害関連死2名を含む)の方が犠牲になられ、未だに行方不明の方も一人おられます。
一年かけて応急復旧に努めてまいりましたが、思うように進んでいないとこもあります。
損壊した家屋の公費解体、宅地内土砂撤去、住宅の応急修理について申請があった案件については84〜100%の実施率となっています。これらも今年の8月末を目処に100%を目指してまいりたいと思っています。

― 予定通りというよりは、少し時間がかかっている状況でしょうか?

やはりインフラ整備が優先される中で、業者も手いっぱいで、なかなか思うように発注できなかったということもあります。今年に入ってやっと業者も落ち着いてきたと聞いております。一刻も早く、町民の皆さまに落ち着いた暮らしを取り戻していただけるよう、現在、最大限の努力で進めています。

― 広島も梅雨に入り、不安に思っておられる町民も多いかと思いますが、砂防ダムの修復や設置、治山整備などの進捗はいかがでしょうか?

砂防ダムは、国直轄事業として5基、県の事業が17基あります。
ご存知のように坂町は大変細く狭い道が多いため、大型重機が入るための工事用道路の整備から始めなければならず、どうしても時間がかかってしまいます。しかし、いつまたあのような大雨が降ってもおかしくない状況の中で、可能な限り緊急事業として優先して取り組んでまいります。この6月からやっと工事用道路の整備にも着手しました。でき得る限り迅速に進めてまいりたいと思っています。

地域防災リーダー養成講座の様子(画像提供:坂町)

― 今回の西日本豪雨災害を経て、新しい動きや予定されている今後の取り組みについて教えてください。

まずは、レベル3、レベル4が発令された場合に最大限の避難を促す体制作り、具体的にはSNSの活用や防災無線の屋内受信機の無償配布などに取り組むほか、新しい動きとしては、今回の災害を受けて、自治会(住民福祉協議会)単位での避難訓練の必要性を町民のみなさんも痛感されたということで、そうした小規模の避難訓練の支援をしていきます。
これまでも町全体の大規模な避難訓練は行っていたのですが、今後は、もっと小さい自治会単位の避難訓練の実施やその体制づくりが急務だと感じています。具体的には、県から講師を招いて自治会単位で防災士、防災リーダーの養成講座を実施したり、そうした活動に対する財政的な支援などを行っていく予定です。

 

最後に「これからも取材を続けて、情報を発信し続けてください」という言葉で締めくくってくださった吉田町長。決して短くはない坂町の復興への道のりをこれからも丹念に取材し続けたいと思う。

 

写真・文 イソナガアキコ

「平成30年7月豪雨から一年 復興二年目のいまできること」特集ページ

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