芸人の謝罪会見をきっかけに株主の意味を学ぶ

吉本興業の闇営業について、雨上がり決死隊の宮迫博之氏と、ロンドンブーツ1号2号の田村亮氏が謝罪会見をしました。筆者も含めて、かなり多くの方が興味を示していたようで、会見翌日にダウンタウンの松本人志氏が本件について語ることになり、急遽生放送となったフジテレビ系「ワイドナショー」の平均視聴率は16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)となり、同番組開始以来、最高の視聴率になったそうです。

会見の中で語られた内容は驚くことばかりでしたが、なかでも田村氏が述べた「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫といわれた」という部分は強い印象を残しました。ここでいう株主とはどういうことでしょうか? 今回は株主の意味を学びましょう。


起業してすぐにお金は借りられるのか?

そもそも株主とはなんなのでしょうか。難しい言葉を使って説明しても仕方がありませんから、実際に自分事になるような説明をしたいと思います。

まず、皆さんがすごくいいビジネスアイディアを思いついたとします。そこで、起業をしようと、株式会社を設立します。いまは株式会社の設立が非常に簡単で、20万円もあれば株式会社を作れます。これを登記といいます。

そして、登記が済んだら、さっそく従業員を雇って、商品を作り、宣伝し、実際に売っていくことになるのですが、自分のお金だけで全てを行うのは難しいでしょう。では、社長のあなたはどうしますか? 銀行にお金を借りに行きますか? たしかに、銀行は融資というかたちで、企業にお金を貸し出してくれます。しかし、誰にでも貸してくれるわけではありません。貸しても返してくれそうだな、と思う企業だけに貸してくれるのです。

立ち上げたばかりで、何も実績のない企業は銀行からお金を借りることはなかなかできません。そこで、自社の株式を差し出す代わりに、投資家からお金をもらうのです。そうすると、この企業の株主は社長であるあなた以外に、出資をしてくれた投資家も株主になります。つまり、株主とはその企業の株式を保有する人を指すのですね。

株主になるメリットとデメリット

では、株主になるメリットとデメリットは何でしょうか? まず、株主になる理由は、その企業が伸びると期待しているからです。成長せずに倒産すると思うのであれば、そんな企業にお金を投資してまで、その企業の株式を保有しようとは思わないはずです。

想定通りに企業が成長していったとします。そうすると、新しい投資家があなたの企業に投資したいと言ってきます。事業を更に拡大するために追加の事業資金が欲しいあなたの思惑とも一致するため、この投資家にも株式を発行しようとします。

しかし、既存の株主が物言いをつけます。「私は創業したばかりの時にリスクを取って株式に投資したのだから、新しく株主になる投資家には、自分たちが投資した時よりも高い株価で発行してくれ」と。

そこで、既存の株主の意見に従って、初めに株式を投資家に発行したときの株価が1株1円なのに対して、新たに発行する投資家には1株2円で発行したとすると、この時点で既存の株主は自分が持っている株式の価値が2倍になるのです。

つまり、株主になるメリットは、自分は働かなくても、投資先が期待通りに成長し続けてくれれば、投資したお金がどんどん増加していくのです。最終的にその企業が証券取引所に上場したり、大きな企業に買収されたりすれば、最初に投資した時の金額の何十倍、何百倍にもなる可能性があるのです。

デメリットは非常にシンプルで、その企業が倒産してしまうと、株主の持っている株式は基本的には価値がなくなってしまうのです。特に上場企業と比べて、まだ体力もなく、事業が上手くいくかも分からないベンチャー企業の株主になる場合はそのリスクは高いので、ハイリスク・ハイリターンの投資になります。

株主と社長はどっちが偉い?

それでは、投資家と社長はどちらが偉いのでしょうか? 冒頭の「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫といわれた」という発言の内容はいくつか解釈の仕方があると思いますが、「テレビ局は吉本の株主だから、投資先の企業(吉本)の印象が悪くなるような事はしない」という意味があったように思われます。

この発言だけを見ると、株主よりも社長の方が偉そうに思うかもしれませんが、正確にいうと株主と社長は役割が違うため、一概にどちらが偉いとはいえません。従来は企業経営を健全に行うために、「経営と所有の分離」が行われます。

たとえば、ほとんどの株式を社長が保有している場合、大株主でもある社長が自分に有利に働くような意思決定をすることで、社長以外の株主にとっては不利になることが生じやすくなってしまいます。そこで、株主は事業に必要なお金を出し、第三者的な視点から企業に都度提案をし、一方で経営者は役員報酬という業務委託料をもらい、会社の経営に専念する分業制によって会社が経営されていきます。

そう考えると、どちらが偉いという話ができない理由はわかるでしょう。それだけに、企業の社長が株主を軽視するような発言は厳しく叩かれるのです。

日本独特の文化、株主優待

日本で株式投資をすると、株主であるメリットを様々なかたちで享受できます。前述の様に投資先の企業が成長して評価されれば、保有している株式の価値が上がりますし、企業によっては株主に定期的に配当金を出す場合もあります。これは海外でもそうですが、日本には株主優待という独自のメリットもあります。レストランで使えるお食事券や、自社製品の詰め合わせ、自社施設の割引利用券など種類は非常に豊富です。

株価自体は企業の業績やマーケット環境によって上下するため、投資資金が目減りしてしまうリスクもありますが、株式投資を通じて、株主の権利というものを実感してみてもいいかもしれません。

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