責任を負うべきは

 暗闇から「ある声」が問う。この世でおまえのしたことの責任はどうか? 「僕」が答える。〈四分の一は僕の遺伝、四分の一は僕の境遇、四分の一は僕の偶然、-僕の責任は四分の一だけだ〉。24日が命日だった芥川龍之介の遺稿「闇中(あんちゅう)問答」にある▲京都市伏見区のアニメスタジオで34人が亡くなった放火殺人事件から1週間たった。容疑者の男(41)の取り調べは進んでおらず、動機の解明には程遠い。「境遇」はどうだったか▲事件前、さいたま市のアパートで隣に住む男性に言い掛かりをつけ、胸ぐらをつかんだ。「こっちは余裕ないんじゃ」「失うものは何もねえ」。近隣の人とたびたびトラブルを起こしていたという▲気質がどうあれ、心の状態がどうあれ、境遇、身の上がどうあれ、「僕の責任」が何分の一かになるわけはなかろう。四分の四を負う▲きのうの紙面の社会面には、京都の事件から「1週間」の上に、佐世保市で高校生の命が奪われた悲しい事件から「26日で5年」の記事がある。小学校から中学校へ、子ども一人一人の情報を引き継いだりと、これまで進んできた取り組みもあれば、まだまだ課題もある、と記事は伝える▲命とはどう遇されるべきか、絶え間なく考える。大人と社会こそが負う「責任」をきょう、あらためて胸に刻みたい。(徹)

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