“脱”過保護! フィンランドの学校が考える「安全」と「危険」の捉え方

「ヘリコプターペアレント」。日本でいう「過保護の親」のことですが、日本に限らず海外でも問題になっています。それではフィンランドではどのように対処しているのでしょうか。世界中の学校を訪れ、先生や保護者にインタビューをしてきた筆者が、フィンランドの小学校の先生に教えてもらった「脱過保護」について重要なことをシェアします。

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世界中で注目される「過保護」というテーマ

「ヘリコプターペアレント」という言葉を聞いたことがありますか? カナダやアメリカなどで使われる表現で、ヘリコプターのように子どもの頭上で旋回しながら過干渉する親のこと。日本語に訳すと「過保護な親」という言葉が近いようです。日本でも2017年に「過保護のカホコ」というドラマが放映されましたが、「過保護」というテーマは世界共通で注目されています。

子どもに必要以上に干渉してしまうと自立する力を奪う……わかってはいても、ついつい助けたくなってしまう。絶妙な距離感が難しいからこそ、世界中で「過保護」というテーマが注目されているのではないでしょうか。そこで今回は、世界中の学校を訪れ、先生や保護者にインタビューをしてきた筆者が、フィンランドの小学校の先生に教えてもらったことをシェアします。適切な脱過保護を目指す上で非常に参考になる考え方です。

フィンランドで出会った新しい”脱”過保護の考え方

私はフィンランドに滞在していた約3ヶ月間、ほとんど毎日小学校に訪れて授業を見学しました。算数や英語だけでなく、森の中で行うスキーの授業など幅広い授業を見学しましたが、中でも一番の驚きと学びがあったのは、図工の授業です。

ある小学3年生の図工の授業を見学したとき、子どもたちが作っていたのは先の尖ったBBQピックでした。子どもたちは万力やハンマーを使いながら作業を進めています。その光景はまるで、中学校での技術の授業のよう。さまざまな工具を使いながら尖ったものを工作する小学生たちを私はヒヤヒヤしながら見学していました。授業が終わった後、すぐ先生に質問しました。「あんな作業を小学3年生がして危なくないのですか?」それに対する先生の答えは今でも忘れられません。

「本当に危ないことってなんだと思う? 何が安全で何が危険かわからないまま、大人になることさ。子どもたちは今、安全な環境で危険なことの扱い方を学んでいるんだよ」

それはまるで、フィンランドの名作ムーミンに登場する「スナフキン」と話している気分でした。たしかに先生の話す通りかもしれません。教育とは目先のことだけでなく、相手の人生トータルを考えることが重要ということを痛感いたしました。

ベースになるのは「信頼関係」

とても理にかなっている話に納得しつつも……それでも「もし事故でも起こったらどうしよう」というふうに考えてしまう私は、少し過保護な気質があるのかもしれません。そこで先生にもうひとつ質問をしてみました。

「たしかにおっしゃる通りなのですが、本当に怪我などないのでしょうか?」この質問に対して、先生はこのように答えました。「僕の授業では、事前に子どもたちと安全のためのルールを決めているんだ。この道具を使うときはここに注意をする、といった具合に。だから僕の授業で大きな怪我が起こったことは一度もないよ」

この言葉は当たり前のことだと感じたのですが、続く先生の言葉はとても新鮮でした。「子どもたちがルールを守ってくれるかどうかは、自分との信頼関係にもとづくもの。だから僕は子どもたちとの信頼関係をとても大切にしているんだ」

たしかにそもそもルールを決めても、守ってもらえなければ無意味です。しかし信頼している相手とのルールは守りたくなるもの。先生方はただ理想論を唱えるだけではなく、その本質としては「日々の信頼関係」という地道なことを淡々と大切にしているようです。

余談ですが、フィンランドの小学校の先生10名に「教育の中で一番大切にしていることはなんですか?」と質問したところ、一番多かった回答は「信頼関係」でした。

信頼関係をベースに、安全に危険を経験する

図工の時間でも休み時間でも野外学習でも、どこまでサポートしてどこから任せるのか。これは重要な問いでありながら、絶対的な答えのない難しい問いでもあります。しかし、どんな関わりをするにしても信頼関係は重要になるでしょう。信頼関係がないまま、表面上だけの脱過保護を目指せば、単なる「無責任」や「放任」になってしまい兼ねません。

「日々の信頼関係をベースにして、きちんとルールを決めて、安全に危険を経験する」

バランスの難しい過保護の距離感ですが、参考になったという方は教育や子育てにおいて、ぜひ実践してみてください!

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