MUSIC WAVE 84 ― ジャパメタムーブメントが沸点に達した夏の日 1984年 7月21日 ジャパメタの祭典「MUSIC WAVE 84」が日比谷野外音楽堂で開催された日

35年前の夏の日、日比谷野外音楽堂は詰めかけた多くの若い HM/HR ファンによって、都心のどこよりも熱い空気に包まれていた… はずだ。残念ながら、地方在住だった高校1年生の僕には、その場に居合わせる夢は叶わなかった。

若手アーティストを中心とした音楽フェス『MUSIC WAVE』は84年に7回目を数えた。日比谷野音での『MUSIC WAVE 84』には、アースシェイカー、メイクアップ、アン・ルイス、44マグナム、浜田麻里(アン・ルイスはゲスト)の5組が出演。ゲストを除けば、当時台頭した新世代ジャパメタの中核を成すアーティストが勢揃いした。

同年5月には “西” の大阪城野外音楽堂でジャパメタの一大フェス『グランドメタル』が開催され、それに呼応するように “東” で行われたこの日のライヴの模様は NHK が収録し、後日ダイジェスト版として全国でオンエアされた。この一連の流れが、ジャパメタムーブメントを決定付けるエポックメイキングになったことは間違いない。

番組のオンエア当日、僕は自宅のビデオデッキに、いつもより少し高価な VHS テープをセットして待ちかまえた。番組が始まり録画ボタンを押すと、ライヴパフォーマンスの全てを見逃すまいと、固唾を呑んで食い入るように画面を見つめた。

オープニング映像に乗せて登場したのは、まさかのアースシェイカーだった。驚いたのは当然で、人気や知名度から間違いなくトリは彼らだと思い込んでいたからだ。彼ら自身も出演順に納得していなかったらしく、そのうっぷんを晴らすような気迫が、この日のライヴの出来を決定付けることになる。

夕方4時、照明効果もままならぬ明るいステージにスモークが立ちこめる中で「モア」が始まった瞬間、もの凄い数の観客が一斉に前に押し寄せ、負けじとマーシーらフロント3人が応戦する。観客とメンバーが激しく交差し、早くもハイライトを迎えたような光景に、僕は鳥肌が立つ興奮を覚えた。

改めて映像で確認すると、高年齢化が進む昨今の HM/HR ファンと違い、観客層が一様に若い事に驚かされる。そう、当時の HM/HR は、若者達のあり余るパワーを発散させるための音楽だったのだ。

先陣を切った彼らの渾身のパフォーマンスは、今時のフェスにありがちな、みんな仲よく「次のバンドに繋げる」という日和った雰囲気など微塵もなかった。フェス形式は各バンド同士の真剣勝負の場。そんな緊張感あるスタートが、この『MUSIC WAVE 84』を素晴らしいフェスにしていった。

2番手に登場したメイクアップの時には、あんなに前に押し寄せた観客が引いてしまった様子が、生々しく映し出された。まだデビュー間もなかった彼らは、音楽性の違いとはいえ、この洗礼を受けてきっと悔しい思いをしただろう。

ヴォーカルの山田信夫が煽れば煽るほどに空回りしていく… そんな場面すらも確認できた。しかし脂の乗り切ったシェイカーの直後という、厳しい状況下で善戦した経験は大きなものだったはずだ。実際に翌年、僕が観た彼らのパフォーマンスは見違えるように逞しく成長していた。

3番手はアン・ルイス。元々 HM/HR 好きだという彼女だが、このメンツでは正直浮いていたし、観客席はまるで休憩タイムと化していた。けれども、あえて迎合することなく、独自のパフォーマンスを貫いた彼女には、今改めて見るとプロの意地を感じる。

夕闇が訪れ、目映いライトに照らされ4番手に登場したのが44マグナムだ。会場全体が明らかに異様な期待感に包まれているのが、画面を通じても伝わってきた。ステージ前までびっしりと観客が押し寄せてひしめき合っている。これこそが破竹の勢いでシーンを席巻するバンドの勢いなのか!と、その違いをまざまざと見せつけられた。

ド派手なコスチュームに身を固め、金髪のロン毛を振り乱すメンバー達は公共放送に似つかわしくない姿で、その醸し出すオーラに圧倒された。ポールは少々乱暴な MC で煽りまくり、完全掌握された観客は拳をふり上げて終始興奮しっぱなしだ。

オンエアされたのは3曲だけだが、全国のロック好きの若者に、画面を通じて最大級のインパクトを与えたのは、間違いなく彼らだった。

そして、トリとして5番目に登場したのが浜田麻里だ。最も勢いのあるマグナムの直後のパフォーマンスは、相当にプレッシャーがあったのではないか。

けれども、そんなことはおかまいなしに、彼女の世界観を体現した堂々たるパフォーマンスと、すでに異次元だった歌唱力にぐいぐいと引き込まれた。男中心のジャパメタシーンの中で本気の戦いに挑む姿は、そのキュートなルックスとは裏腹に格好良く見えて仕方がなかった。

番組ラスト曲の「ノア」で見せてくれた、他のアーティストを蹴散らすかのような圧倒的なパワーこそが、ここから35年に渡りロック界の第一線で活動を続けてこられた源なのだろう。

『MUSIC WAVE 84』は、幸運にもこの日の会場に居合わせた若い観客に加え、僕のようにテレビの地上波を通じて体験した数多くの全国の若者達が、ジャパメタに魅了され、結果として、様々な日本の HM/HR バンドにハマったり、楽器を手に取ってバンドを始めたりする、大きなきっかけにもなったに違いない。

その後、僕は野音を何度も訪れる機会があった。そのたびに真っ先にふと思い出すのが『MUSIC WAVE 84』の情景だ。あの瞬間に立ち会うことはできなかったけど、今映像を通じて当時のパフォーマンスを改めて観るだけでも、画面の前で熱い気持ちを抱いた、記憶の中の自分に戻れるのだ。

カタリベ: 中塚一晶

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