転売目的の購入者激増でファン涙目 過熱する「スニーカー投資」の世界

ある日、原宿のスニーカーショップの前には平日早朝にもかかわらず長蛇の列が。彼らのお目当てはこの日発売となる「ナイキ」のスニーカー。若者だけでなく、幅広い年齢層のユーザーが希少な人気モデル目がけて集結していました。もちろん開店と同時にそのモデルは完売。後日オークションサイトを見てみると、そのアイテムが高値のプレミアム価格で出品されていて――。

今、スニーカーが世界的な大ブームです。アメリカでの市場規模は650億ドル(約7兆円)を超えるとされ、日本国内でも個々数年でスニーカー市場は5000億円を超える規模に成長しました。1990年代にもナイキの「エアジョーダン」や「エアマックス」を始めとしたスニーカーが流行しましたが、そのときと現在のブームではどこが違うのでしょうか。

現在のスニーカーブームを語る上で欠かせないのがリセール(転売)の市場です。「e-bay」などのオークションサイトのみならず、最近では「GOAT」や「Stock X」などスニーカー専門の転売プラットフォーマーも現れ活況を呈しています。インターネットを駆使した転売市場の広がりは90年代にはなかったもの。なかでも「Stock X」はスニーカー転売に株式の仕組みを取り入れたことが話題となっています。まるで株取引のようにスニーカーの売買を通して利益を得る――今やスニーカー転売はある種の「投資」ともなっているのです。

なぜ今、スニーカーがこんなにもブームなのか。そして拡大する転売市場と「スニーカー投資」の現状は。日本を代表するスニーカーヘッズ(熱狂的なコレクター)であり、アパレルブランド「ALWAYS OUT OF STOCK」を手がけるKING-MASAさんにお話を伺いました。


過熱するスニーカー転売市場

子どもの頃にスニーカーに魅了され、コレクターの道にのめり込んでいったKING-MASAさん。「昔は靴を本当に好きな人がショップに並んで買っていたという感じだったんですけど、最近は転売目的で雇われた人が並んでいたりする。全然違いますよね。僕もショップに並んでそこで会った仲間とスニーカーについて話すのが好きだったんですが、最近はあまり行かなくなりました」と、過熱するブームに対する違和感を口にします。

「今、実は本当のスニーカー好きの熱はちょっと落ち着いているんですよ。でも転売という部分では異常なくらい盛り上がっているなと思います。スニーカーショップではゲリラで新作が発売されることもあるんですが、昔はそういう情報は足で稼がないといけなかった。でも今はネットでどんどん情報が出ますからね」(KING-MASAさん)

SNSやwebメディアで新商品の情報が発信され、瞬く間に伝播していく。かつてはマニア同士の情報交換によって成立していた市場がテクノロジーによってオープンになり、情報がスピーディかつ爆発的に広がっていく。そうした環境も、転売による取引が活性化している背景にあるのかもしれません。

とはいえ人気のモデルには定価の10倍ものプレミアムが付くケースもあるスニーカー市場。リセールサイトを見ると、10万円、20万円という価格のスニーカーがどんどん売れていることがわかります。こうした高額なスニーカーをどんどん購入しているのはどのような人たちなのか。

20万円ほどで取引されるスニーカーも。「Stock X」のサイトより

MASAさんは「バラバラですよね。若い子もいれば年配の人もいて。若い子はお金がなくて定価じゃないと買えないけど、中にはローンを組んで買っている子もいて、すごいなと思います」と話します。長年のスニーカーマニア、ミュージシャンやモデルなどのスターが着用したアイテムに憧れる若い世代、さらにはそこに投機的価値を見出す人々など、多種多様な人々が集まっているのが、現在のスニーカー市場の特徴といえそうです。

転売価格が上がり続けるワケ

スニーカーのリセールサービス「Stock X」のCEOジョシュ・ルーバーが米『GQ』のインタビューで語ったところによると、世界のスニーカー転売市場規模はおよそ60億ドルで、さらに成長を続けているといいます。スニーカー全体の市場の1割に迫る規模にまで成長していることになり、巨大な経済を生み出していることがわかります。

スニーカーやアパレルのリセール市場とは、ブランドの付加価値がプレミアムという「お金」に換算される場だということができます。しかしその相場はどんどん高騰し、本来の付加価値以上のお金がそこに生まれているようにも見えます。KING-MASAさんから見ても、スニーカーや洋服の現在の相場は「高い」と感じるようですが、一方で「しょうがない」とも言います。

「高いですよね。『シュプリーム』のTシャツが1枚8万円とか9万円とかになっちゃっているから。今『ルイ・ヴィトン』とかを買っていた人たちが(ストリートファッションに)下りてきていて、その人たちたちはヴィトンと同じ感覚でシュプリームにお金を出す。それはどうしようもないと思います」。ハイブランドとストリートブランドの垣根が低くなっているのは現在のファッションにおける特徴のひとつですが、それによって転売価格も高騰しているという側面もありそうです。

リセールがどんどんオープンに

「転売」というと、特に日本ではいまだ嫌悪感を抱く人も多そうですが、実は海外ではまったく様相が違います。「海外に行くと、お店で買った人が外に出てすぐにリセールをしていたりするんです。お店の前で買ったばかりのアイテムを並べたりして」(KING-MASAさん)。

そうしたリセールに対するオープンな国民性が、現在のリセールマーケットの隆盛を支えているという側面もあります。しかしオンラインで気軽に転売できるサービスが増えてきたことで、今後日本でもどんどん市場が広がっていくかもしれません。

ただ、「顔を出さないで転売する」というシステムは、購入者からすると一層不安に感じる部分でもあります。どんな素性の人がどんなルートで仕入れた商品なのかがわからないからです。実際に偽物が届いたり、詐欺に遭ってしまったりというケースも容易に考えられます。その点についてある利用者は、リセールの場を提供しているプラットフォーマーがもっと透明性を打ち出すべきだと言います。

「どこかから画像だけ引っ張ってきて偽物を売っている人もたくさんいます。それは顔が見えないからみんな悪さをするんです。たとえば、商品の横に免許証を並べて写真を撮って出品していれば、悪さなんかできない。転売の場を提供しているところはもっと対策をすべきだと思います」(ある利用者)

話題の「Stock X」とは?

そうしたところに登場したのが、商品の鑑定を自ら行い、価格の適正化をはかることで転売のシステム化を推し進める「GOAT」や「Stock X」のようなサービスです。とくに2016年にジョシュ・ルーバーによって立ち上げられた「Stock X」は、株式市場の仕組みを取り入れ、ユーザーに転売価格の相場や過去の取引実績などの情報を提供しているという点で、その他のリセールプラットフォームとは一線を画しています。

「Stock X」のサイトより

「Stock X」はスタート以来急速にサービス規模を拡大。年間で10億ドル(約1,100億円)もの取引が行われ、「Stock X」での取引額が、スニーカーリセール市場におけるひとつの相場を生み出しているともいわれます。一方で出品されているスニーカーのなかに偽物が多いなどのネガティブな話も多数出回っていて、賛否両論が起きているのも事実。しかしそれらの批判的な見方に対して、KING-MASAさんは「デマも多いので」と断じます。

「(スニーカーの真贋)鑑定が甘いという話もありますし、僕も実際に買ってみたところシッピングが遅いなとは感じました。ですがネットの情報のとおり本当にクオリティが低かったらあそこまでビジネスとして大きくならないんじゃないかとも思います。少なくとも『e-bay』などで個人間で買うよりは信頼度が高いと思います。僕は知っている人が運営サイドにいるというのもあって『GOAT』を使うことのほうが多いですが」。

スニーカーは「投資」になる?

「Stock」という言葉が名前に入っているとおり、「Stock X」が標榜しているのは「スニーカーの株式化」です。実際に「Stock X」などを通してスニーカーの売買をして利益を得る「スニーカー投資」という言葉も広がりを見せています。しかし実際のところ、スニーカーは有効な「投資先」になりうるのでしょうか。

KING-MASAさんも「スニーカーの価格は誰が履くかによって大きく変わります。もちろん『このスニーカー絶対来るな』とある程度読める部分もありますけど、読めないもののほうが多いと思います。カニエ・ウェストやトラヴィス・スコットみたいなセレブが履いただけで急に値段がはね上がりますから」と語るとおり、ひとりのセレブがあるスニーカーを履いた写真をInstagramにアップすれば、その瞬間から価格が高騰するというのが現在のスニーカーシーン。

取材に答えるKING-MASAさん。冒頭のスニーカーも本人私物で、モデルはNike blazer high x sacai

その意味では「投資先としてのスニーカー」は限りなく不安定なものだといえます。言葉のあやとはいえ、株と同列に扱うのは無理がありそうにも思えます。そもそも、株とは決定的に違うのが、スニーカーは基本的に「趣味のアイテム」であるということ。相場は流行に左右されますし、上記のような外的要因も大きく影響します。

MASAさんも「人から『スニーカーで投資してみたい』と言われたら『全然いいんじゃない?』と言いますけど、やっぱり簡単じゃないし、経験値が大事ですよね」と話します。スニーカーというカルチャーに対する愛着と造詣も、「スニーカー投資」で成功するための条件なのかもしれません。

日本でも今年6月、「Stock X」に近いサービスを提供する「モノカブ」(株式会社ブライノ)がスタートしました。今後日本でも「スニーカー投資」が盛り上がる機運はあるのでしょうか?「日本ではタマ数(市場に出回っているスニーカーの種類や数)が少ないので、アメリカのようにはならないのではないかと思っています」(KING-MASA)。現時点では、「スニーカー投資」はあくまでアメリカを中心とした海外のマーケットが主戦場となりそうですが、興味をもった方は、ぜひ一度「Stcok X」や「GOAT」を覗いてみてはどうでしょうか。

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