動物園で進む「環境エンリッチメント」動物に合わせ生活の質向上

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老いたライオンのナイルを見つめる松永さん。「ナイルの幸せとはなにか。飼育員として葛藤もある」と話す(京都市左京区・市動物園)

 動物にとって幸せな暮らしとは-。全国の動物園や水族館では近年、動物たちの豊かな暮らしを実現するため、飼育や展示方法を工夫する「環境エンリッチメント」に力を入れている。京都市動物園(左京区)でも種の特性を引き出し、ライフステージに応じた飼育環境を整える取り組みが進んでいる。

■国内飼育期間最長のライオン

 「ウオー、ウオー」。園内に雄ライオン「ナイル」の鳴き声が響く。飼育員の松永雅之さん(51)は声を聞き「今日も元気だ」と安心する。ナイルは現在25歳、人間でいうと100歳を超える。昨年10月、国内の動物園で飼育期間最長を記録した。

 食欲に波があり、2年前に比べて体重は20キロほど落ちた。やせ細った体には骨が浮かび、足取りがおぼつかないことも。自分で毛繕いができないため、麻酔をかけて爪を切るなど飼育員がケアする。衰えても懸命に生きる姿を応援するファンも多いが、中には「もう安楽死させてあげて」と悲痛な声も寄せられる、という。

 松永さんは「ナイルには自分で食べる意欲も判断能力も残っている」といい、「環境に対応する能力があるうちは、それを引き出し、必要なケアをするのがエンリッチメント」と力を込める。高齢の動物を温度管理が可能でバリアフリーな飼育室へ移すなど、年齢に応じたサポートを行い、生活の質を向上させることも今後重要になってくる。

■種に応じ、多岐にわたる取り組み

 市動物園の環境エンリッチメントの取り組みは、多岐にわたる。長年単身で暮らしていたアジアゾウは、もともと群れで暮らす習性に倣い、複数飼育に切り替えた。チンパンジーには、木の上にベッドを作る野生本来の行動を学習できる環境を整える。

 昨年からは「仲間と暮らせているか」「身を隠せる場所があるか」などチェック項目を設け、優先的に環境改善が必要な動物を選んでいる。例えばツキノワグマには、クマ舎に丸太を渡して立体的空間をつくり、遊びや運動を可能にした。マンドリルなど知能の高い動物には、タッチパネルを使った学習を取り入れることで刺激を与え、退屈な時間を減らしている。

 展示動物のストレス軽減にも取り組む。小動物と触れ合える「おとぎの国」では来園者の多い休日に限り、テンジクネズミの抱っこをやめて、背中をなでるだけにした。「もっと触りたい」という来園者の満足度と動物のストレス軽減は基本的に相反するだけに、そのバランスの取り方に園は頭を悩ませる。

 市動物園・生き物・学び・研究センターの山梨裕美主席研究員(33)は、「飼育動物との関わり方を捉え直すことが、野生動物を含む全ての動物との関わり方を考え直すきっかけになれば」と話す。

【環境エンリッチメント】

 動物の福祉と健康を向上させる観点から、動物園などの飼育環境を、野生動物の生息環境にできるだけ近づけるよう工夫し、動物の「豊かな暮らし」を実現する手段。具体的には、餌の種類や与え方の工夫、植栽による環境改善など。群れをつくる習性のある動物を群れで飼育したり、知能の高い動物を退屈させないために遊具を与えたりといった方法もある。