【やまゆり園事件3年】巣くう無意識の偏見 視覚障害者「思い寄せる社会に」

点字ブロック上に置かれた看板に衝突し、女性が重傷を負った事故現場付近 =横須賀市

 射るような冷たい声が耳の奥底に今も残っているという。「あなたがわざとぶつかってきたんじゃないですか」-。視覚障害者の女性が点字ブロック上の看板に衝突し、重傷を負った事故の示談交渉での一言だった。2016年7月の相模原殺傷事件では、一人の青年が障害者への憎悪を振りまいた。だが、女性は思う。程度こそ異なれ、無意識の偏見や無理解は世間の至る所に横たわっているのではと。

 事故に遭ったのは横須賀市に住む女性(49)。視力が徐々に低下し失明することもある難病「網膜色素変性症」を患い、26歳ごろに完全に視力を失った。

 2016年7月14日昼すぎ、同市内の福祉施設に向かうためバスを降りた直後のことだった。点字ブロック沿いに歩いていると、舗装工事を通知する看板と衝突。転倒した女性は両足首の捻挫など全治8カ月の重傷を負った。誘導員は直後に現れたが、気遣う様子は感じ取れなかった。

 看板を置いた横浜市の舗装会社側は、事故後の示談交渉で不誠実な対応に終始した。「危険なことをした自覚が全くなく、視覚障害者を理解しようとする姿勢はうかがえなかった」と女性。1カ月の交渉で結局、謝罪はなく、提示された示談金はわずか7万円だった。

 「泣き寝入りはできない。再発防止のためにも徹底的に戦わねば」。舗装会社側に580万円余りの損害賠償を求めて横浜地裁に提訴し、今年4月、200万円の支払いと謝罪、再発防止策の徹底などを条件に和解が成立した。

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  女性はこれまでも、世間の心ない反応に日常的にさらされてきた。白杖(はくじょう)を持って歩くとどこからか舌打ちが聞こえ、駅のホームでは横入りを誤解されて列に並ぶ人から注意を受けたこともあった。「私も舌打ちしたい」と心の中で腹を立てつつも、「その人たちにとってはそれが日常なんでしょうね」。

 訴訟で女性の代理人を務め、自身も視覚障害者の大胡田誠弁護士は「多くの人が障害者と接する機会もなく理解を深めていないがゆえに、種々のトラブルが起きる」と指摘する。自身はかつて火災を起こしやすいとの偏見から、住宅の賃貸契約で苦労した。

 「住宅の安全は誰もが考えることで、それが当たり前だと押しつけてくる。無意識の差別や偏見はそうして生まれてくるということを意識する必要がある」

 女性には足首を中心に痛みが残り、仕事にも支障が出ているという。訴訟終結後、舗装会社からの直接の謝罪はまだない。それでも多くの人に支えられながら生活を送っていると明かす女性はこう願う。「私たちのような人が日常の中にいることに、もっと思いを寄せる社会になってほしい」

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