すばる望遠鏡、超大質量ブラックホールを利用した一般相対性理論の検証に貢献

国立天文台ハワイ観測所は7月25日、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のAndrea Ghez氏らによる一般相対性理論の検証を目的とした研究に「すばる望遠鏡」が用いられたことを発表しました。研究内容は論文にまとめられ、同日付でサイエンス誌に掲載されています。

Ghez氏らの研究チームは一般相対性理論を検証するために、天の川銀河の中心に存在が確実視されている超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」を周回する恒星「S0-2」(S2とも)を観測し、その光の波長を調べることに挑戦しました。

太陽よりも重く明るいB型の恒星であるS0-2は、いて座A*の至近距離を彗星のような楕円軌道を描きつつ16年かけて周回しています。最も接近するときの距離はわずか120天文単位(1天文単位は地球から太陽までの距離に由来)ほどで、その動きはいて座A*の質量が太陽のおよそ400万倍であると推定する際にも利用されました。

アルバート・アインシュタインの一般相対性理論によると、ブラックホールの近くを通過する電磁波は、強大な重力によって波長が伸ばされてしまいます。可視光線(人の目に見える光)の場合はより赤に近い色合いに変化することから、こうした現象は「赤方偏移(redshift)」と呼ばれます(なお、赤方偏移は「天体が地球から遠ざかる方向に運動する」ときにも生じます)。

そこで注目されたのが、いて座A*に接近するS0-2です。光の速さで17時間しかかからない距離にまで接近するS0-2ともなれば、赤方偏移の影響はより強いものとなるはず。S0-2が発した光の波長を分析すれば、一般相対性理論を検証できるのではないかと考えられたのです。

今回Ghez氏らは、2018年3月から9月までの期間にS0-2がいて座A*に最接近するのに合わせて、ハワイの「ケック望遠鏡」「ジェミニ北望遠鏡」、そしてすばる望遠鏡を使ってS0-2を観測。1995年から続けてきた観測データとあわせて赤方偏移を分析したところ、一般相対性理論を証明する結果が得られたのです。

なお、超大質量ブラックホールを周回する恒星を使った一般相対性理論の検証は、S0-2だけでは終わりません。Ghez氏が注目している別の恒星「S0-102」は、いて座A*をS0-2よりも短い11年半ほどで周回しています。今後はこうした恒星の観測を通じて一般相対性理論の検証が続けられることになるでしょう。

Image Credit: NICOLLE R. FULLER, NATIONAL SCIENCE FOUNDATION
https://subarutelescope.org/Pressrelease/2019/07/25/j_index.html
文/松村武宏

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