夢の甲子園「信じていた」 大会前骨折の富島3年泉さん

仲間が寄せ書きしたバッティンググローブを着け、スタンドを盛り上げる泉耕成さん(手前)=29日午前、宮崎市・KIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎

 みんなで一つになるぞ―。宮崎市のKIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎で29日あった全国高校野球選手権宮崎大会決勝、初優勝を飾った富島高の応援席に、ひときわ大きな声が響いた。野球部3年で唯一、ベンチを外れた泉耕成さん(17)。大会前に左足を骨折し出場を断念したが、仲間はその無念さを晴らすように気迫のこもったプレーを披露した。「ありがとう」と感謝の涙が止まらなかった。
 泉さんは代打の切り札で控え捕手、チームを鼓舞するムードメーカーでもある。今大会前の5月末、練習中に左足の中足骨(ちゅうそっこつ)を骨折した。「なぜ今」と無理をしようとしたが、同級生らに止められた。「泉を甲子園に連れて行く。だから治療に専念しろ」。その言葉を信じ手術を受ける決意が固まった。
 勝ち進み、迎えた決勝。「スタンドは俺に任せろ」。生徒やチアリーダーを懸命に盛り上げた。手には「泉のために」「甲子園へ」などと同級生が寄せ書きした白いバッティンググローブがあった。
 序盤から優位な展開となりお祭り騒ぎになる中、顔をくしゃくしゃにしておえつを漏らした。「『お前のために打つ』と言ってくれたみんなのプレーがうれしくて」。あふれる涙を拭い、声をからした。試合後は真っ先にベンチに行き、仲間と抱擁。閉会式でプラカードを手にダイヤモンドを誇らしげに一周した。
 「まだ家族に晴れ姿を見せられていない。甲子園でベンチ入りする。感謝の気持ちと魂を込めたフルスイングをする」。つながった夢に視線を移し、闘志をみなぎらせた。
保護者ら歓喜、抱擁
 富島高の応援席には生徒約180人と保護者、OBらが陣取り、夏は初めてとなる甲子園出場を喜び合った。
 一、三回に適時打と本塁打を放った黒木剛志選手の父・秀則さん(48)は「一番いい場面で打ってくれた」。ボルテージは最高潮となり、チアリーダーを務めたダンス部3年、黒木萌優(もゆ)部長(18)は「めちゃくちゃ楽しい。(昨春の)センバツを思い出す」と笑った。勝利が決まると保護者らは抱き合って喜んだ。
 保護者会の黒田洋司会長(49)は「幼いころからの夢を現実にしたのが信じられない。よくやってくれた」と感激していた。
小林西スタンド「よく頑張った」
 三塁側スタンドには小林西高の生徒や野球部の保護者ら200人以上が詰め掛け、勝利を願い声援を送り続けた。
 先制され、序盤から苦しい展開に。それでも粘り強く守るナインに「いいぞ」「その調子」と声が飛んだ。野球部2年で応援団長の松山昂平さん(17)は「選手がプレーしやすいように全力で後押しする」と声を張り上げた。
 昨年の主将で山口・徳山大1年、瀬田川優成さん(18)は「接戦を勝ち上がってきたチーム。勝負強さを発揮して」と逆転に期待したが、好機であと一本が出ず、完封負け。試合後は「よく頑張った」と拍手でねぎらっていた。
 浦林祐佑主将の父・茂さん(47)は「左打者に転向するなど努力してきた。経験を今後の野球人生に生かして」とたたえていた。

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