透明性高い手続きを 市民団体が改善求め 横浜教科書採択

 8月1日に控える横浜市教育委員会による教科書採択を前に、市民団体「横浜教科書採択連絡会」は29日、透明性の高い、より子どもの立場に立った手続きに戻すよう、市教委に求める声明を出した。市教委は2009年以降、教科書名を出さない審議や審議会の答申を無視した採択、委員による無記名投票などの手法を取っている。

 声明の発端になっているのは、元市教育委員長の今田忠彦氏が4月に出版した著書。

 その中で、今田氏は個人的価値観に添った教科書として「新しい歴史教科書をつくる会」系教科書(自由社の歴史教科書と育鵬社の歴史・公民教科書)を明示し、他社の中学校歴史教科書を「自虐史観」に基づくと説明。2社が選ばれるよう「努力」したと記述している。

 09年の採択では、教科書の取り扱いを調査する審議会の答申内容に不満があった当時教育委員長だった今田氏が独自の観点で勉強会や資料作成を行い、答申無視の判断をしたとも明かした。その上で、18区中8区で自由社が選ばれた結果に「採択の歴史に新しいページを拓(ひら)いたという誇りも感じていた」と記した。

 連絡会によると、市教委は09年以降、基本的に教科書名を出さない審議などを継続している。県内でこうした手法を取る自治体は他になく、異例という。

 連絡会は声明で、「(今田氏が)個人的信条を優先し、採択に反映させようとした」と指摘。8月1日の採択については、無記名投票など「今田氏の下でゆがめられた採択手続き」の改善を求めている。

 会見を開いた連絡会は「(今田氏の)努力は恣意(しい)的に採択制度を利用して思い通りの教科書を有利に導く努力ではなかったかと思う」と批判。「教科書は特定の価値観を教え込むものではない。それをやっていたのがまさに戦前の国定教科書で、その反省の元に現在の採択制度がある」と述べ、市教委にくぎを刺した。

 今田氏は17年4月に教育委員を退任している。

© 株式会社神奈川新聞社