『メランコリック』 東大卒のニートが銭湯で働き始めたら…

 ツッコミどころはいろいろあるが、印象としてはとても“上手い”映画だ。新人監督の長編デビュー作とは、とても思えない。まず脚本が、何より編集が、そして演出も堂に入っている。主演の皆川暢二と監督の田中征爾、共演でアクションシーンの構成と演出を手掛けた磯崎義知の同い年3人が立ち上げた映画製作ユニットの作品だ。

 東大卒なのに親元でニート生活の主人公が、高校の同級生と親しくなるために彼女が通う銭湯で働き始める。ところがその銭湯では、夜な夜な殺人と死体の解体が行われていた…。ジャンルとしてはサスペンス・コメディーなのだろうが、青春映画の要素やメッセージ性もあって考えさせられる。

 そのメッセージ性というのが本作の魅力の源泉で、決して企みに満ちたトリッキーな内容ではないのに、我々が常識だと思っていることが次々と覆されていくため、意外性のある展開から目が離せないのだ。その上、見事なストーリーテリングを通して浮かび上がる温かみと包容力が、またいい。人生はそれぞれ、価値観もそれぞれ。東大を出てニートだって、プロの殺し屋が童貞だって本人の勝手だろう。

 そんな作り手の思いを広く人口に膾炙するためにも、田中監督にはぜひメジャー路線を歩んでほしい。現時点でも十分に大作が撮れるスキルが備わっているから。本作は、難しいことを難なくやってのけている本当に“上手い”映画なのだ。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本・編集:田中征爾

出演:皆川暢二、磯崎義知

8月3日(土)から全国順次公開

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