『世界の涯ての鼓動』 ヴェンダースの職人技に魅了される

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 これほどレベルの高い作品の評判が芳しくないのは、どうしてだろう。恐らくは、監督がヴェンダースだから。彼の新作が、映画史に輝く『パリ、テキサス』や『ベルリン・天使の詩』と比較されてしまうのは仕方ないとはいえ、これが無名の新人や凡庸な監督の作品であれば評価は違ったはず。前作『アランフエスの麗しき日々』は、彼自身の企画でアート色が強かったが、今回は雇われ仕事。ジェームズ・マカヴォイとアリシア・ヴィキャンデルという人気スターを起用したハリウッド的なエンターテインメントだけに、『ハメット』の失敗例を思い出させることも一因かもしれない。

 MI-6の諜報員と生物数学者が、休暇中に海辺のホテルで出会って恋に落ちる。それぞれ命懸けの仕事に就くべく離れ離れになった二人は、果たして再会できるのか? そんなメロドラマのような恋愛サスペンスで、まずはヴェンダースの職人的な手腕に魅了される。テロップを一切出さないのに、複雑な時制の行き来にも場所の移動にも混乱をきたさない。構図は常に安定し、多用されるクレーン撮影も淀みなく、光と陰が織り成す映像は目を見張る美しさだ。そして何より、二人の会話=ラブシーンの豊かな空間表現。ハリウッド的ではない、説明し過ぎない語り口もさすがである。映画とは、かくあるべき!と思わせる大人のエンターテインメントだ。★★★★★(外山真也)

監督:ヴィム・ヴェンダース

出演:ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル

8月2日(金)から全国順次公開