記憶に残る夏であれ

 二十数年前に全国高校野球選手権の長崎大会に出た元球児は、何回戦かで負けるまでの全試合の小紙の切り抜きを今も大事にしているという。若い日に熱中した何かの記録を今も残し、記憶に深く刻む人は、きっと少なからずいるのだろう▲身近なところでは、三十何年も前の球児の話を今も聞く。高校3年の夏、長崎大会で負けて帰ってくると、大の字になったきり無言で動かずにいた。家族がふと見れば、頬を涙が伝っていた。いつもは帰るなり「飯っ!」と催促していた子が、と▲夏の盛りの高校野球大会は、それを見る人、応援する人の夏までも時に忘れがたいものにする。母校がぐんぐん勝ち上がり、声援にいっそう熱のこもった元球児、卒業生も数多くいたに違いない。長崎大会は海星が5年ぶりとなる夏の甲子園出場を決めた▲決勝で当たった海星、鎮西学院はともにノーシードだった。きのうの記事に〈“夏の海星”が、ぶれずに、堂々と、県の王者に返り咲いた〉とある▲初の大会優勝が懸かっていた鎮西学院の野球部OBは「よく戦ってくれた」とねぎらった。悲願は実らなかったが、後輩に心から贈る言葉だろう▲全国選手権は8月6日に開幕する。球児にも元球児にも、応援する人、いつかの夏を重ねる人にも、記憶に残り、語り継がれる夏であれ。(徹)

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