漫喫と何が違う?ウワサの「マンガホテル」に行ってみた

“本の街”、東京・神保町に今年誕生した「マンガアートホテル トーキョー(MANGA ART HOTEL,TOKYO)」が人気を呼んでいるそうです。マンガの世界に浸ることを目的にしたカプセルホテルで、オープン以来の稼働率はほぼ100%。英語版の作品もそろえ、外国人客からも好評です。

楽天の元・営業マンらが起業、運営しているというこのホテル。従来の漫画喫茶とは何が違うのでしょうか。


ありそうでなかった漫画ホテル

「マンガアートホテル トーキョー」は、神保町のビル内に2月に開業。男性フロアと女性フロアに分かれ、ベッド数は35。共用のシャワーや洗面所、バルコニーなどがあります。

フロアは白で統一され、天井まで届く本棚にゆったりとマンガが陳列されています。棚の裏手や隙間にランダムにカーテン付きのベッドスペースが配置され、秘密基地のような雰囲気を出しています。

マンガに囲まれるように配置されるベッドスペース

マンガの蔵書は日本語の作品4,000冊、英語版1,000冊。フロアによって男性向け、女性向けと選書を変えており、お互いのフロアを行き来することができます。マンガ好きのスタッフらが選りすぐった作品だけあって、普段あまりマンガを読まない記者でも思わず手に取りたくなるタイトルが並んでいました。

選書の基準は、“装丁のアート性”と“内容のアート性”といいます。運営するdot共同代表取締役の御子柴雅慶さんは「マンガのキュレーションこそがうちの価値。5,000タイトルを読んで、装丁にインテリア性があり、読んで感情を揺さぶられるようなものだけ700タイトルに絞りました」と話します。

漫画の装丁が映えるように白で統一されたフロア

時間単位で利用する一般的な漫画喫茶とは違い、ここは旅館業法に基づく宿泊施設。人の出入りや物音に気を取られず、一晩中マンガに熱中することができます。「漫画喫茶では人の往来や安全性が気になったりしますが、ここは宿泊客しか入れません。子どもの頃、押し入れにこもってマンガを読んでいた感覚で、読書に没頭してもらえます」と御子柴さん。

宿泊客は早々とパジャマに着替え、お気に入りの作品を持ち込んで、ベッドにこもります。平均で10冊程度の漫画を読んで帰るそうです。

MANGAは世界の共通言語

御子柴さんはもともと楽天に勤め、広告営業で全国1位の成績を取ったこともある敏腕営業マンだったそう。なぜこのようなホテルを作ろうと思ったのでしょうか。

「自分も漫画から多くのことを学んだ」という御子柴さん

旅行が好きで、民泊仲介サイトなどと使い、世界約50都市を泊まり歩いたという御子柴さん。ところが、現地で出会った人々とたくさん会話をしたくても、共通のテーマに乏しく、すぐに話が終わってしまう。でも、アニメの話なら盛り上がることがありました。

楽天を退職後、自身の経験を生かしてホテルやドミトリーの運営代行の会社を起業。このノウハウを生かし、新しい直営ホテルのコンセプトを考えた時、浮かんだのが、日本が世界に誇る文化である“マンガ”でした。

「マンガを共通言語にして新しいホテルを作ろうと思った。マンガは人と人をつなぐメディア、コミュニティになる」(御子柴さん)

フロアのすべてのマンガには日本語と英語で「おすすめコメント」を書き、手に取ってもらう時のヒントにしました。また、作品を熟知したスタッフを配置し、「泣けるマンガが読みたい」「わくわくする歴史ものが読みたい」などとリクエストすると、お勧めの作品を教えてくれます。

スマホを置いて漫画の世界へ

オープン後、稼働率はほぼ100%を保っているそう。口コミで国内外のマンガ好きが訪れるといい、男女ともに約35%が海外からのインバウンド客です。

旅行中のロシア人女性は、日本語がまったく読めないのに、「絵がすごくきれいなので、ぜひ持って帰りたい」と、「冒険エレキテ島」(鶴田謙二、KCデラックス)という作品を購入。東京観光中の1週間宿泊し、毎晩頑張って日本語版のマンガを読む人もいたといいます。

日本人では出張や旅行のついでにマンガを読みに来る人のほか、都内に住んでいるのにわざわざ泊まりに来る人もいるそうです。30~40歳代が最も多く、中には70歳代のマンガファンが泊まりに来たことも。スタッフにもマンガ好きをそろえ、お客さんと談義が弾みます。

テラスに出て漫画を読むこともできる

御子柴さんは「自分たちが提案するのは、“漫泊”という新しい宿泊体験です。商標登録もしました。電子書籍が主流になりつつある今こそ、スマホを置いて、長編や絵の美しい紙の作品に没頭してほしい」と話します。お客さんの反応を見ながら作品は定期的に入れ替え、蔵書を充実させているそうです。

価格は閑散期の平日で3,000円程度、繁忙期や週末で5,000円前後。一般的なカプセルホテルよりはちょっと高めですが、約2割はリピーターだそう。そういえば最近漫画を読んでないな、と感じたら、夏休みに一度体験してみる価値はありそうです。

© 株式会社マネーフォワード