【気象コラム】水泳世界記録並みの速さ 離岸流に注意

 夏休みには、家族や友人で海へ行く予定を立てている方が多いと思います。海に入って遊んでいるうちに、いつの間にか最初に入った場所から遠く離れた場所に流されてしまったという経験はありませんか? 波打ち際の海底は必ずしも平らではなく、沖に向かって深くなっていたり、浅瀬がしばらく続いていたりとさまざまです。そのため、海水はいろいろな向きに流れます。海岸近くの流れを「海浜流」といいますが、海浜流には次の3つの流れがあります。

・向岸流(こうがんりゅう):沖合から海岸に向かう流れ

・離岸流(りがんりゅう):海岸から沖合に向かう流れ

・並岸流(へいがんりゅう):海岸に沿って流れる流れ(沿岸流ともいう) 

離岸流とは?

 このうち、海水浴場で人が溺れる事故の主な原因となるのが「離岸流」(中央の青い矢印)です。波は沖から海岸へ打ち寄せられますが、岸にたまった海水はどこかから沖に戻ろうとします。この時、岸から沖へ向かって流れる早い流れのことを離岸流といいます。離岸流は長さが数十メートルから数百メートル程度、幅はおおむね10メートルから30メートルです。流れの速さは、速い所で1秒間に2メートルほど進みますが、これは水泳選手の世界記録と同じくらいの速さです。そのため、流れに逆らって岸に向かって泳ごうとした結果、体力を消耗して溺れてしまうことががあるのです。

 離岸流はどこでも発生する可能性がありますが、主に発生しやすい場所は

・海岸が太平洋や日本海などの外洋に面している所

・遠浅で、海岸線が長い所

・沖に向かって突き出した堤防のような突堤の脇、などです。

 ただ、発生しやすい場所が分かっても、どこで離岸流が発生しているかを把握するのは難しいです。次に挙げた4つは、離岸流を見分けるポイントです。

離岸流の見分け方(海上保安庁ホームページを加工して作成)

 ・海岸地形がデコボコしている所

 ・ゴミが集まっている所(海上では周囲と比べて黒く見える)

 ・波の形が周囲と違う所

 ・海の表面が周囲と比べてザワザワしている所  

 実際に海に行った時に、海や海岸の状態をチェックしてみてください。

 さて、気をつけていても、離岸流に巻き込まれて沖に流されたらどうしたらよいでしょうか。まずは、慌てずに落ち着くことが最も重要です。そして、岸に向かって泳ぐのではなく、岸と平行に泳ぐようにしましょう。沖の方向への流れを感じなくなって、離岸流から抜けたと感じたら、岸に向かって泳いでください。泳ぎに自信がない場合は、無理に泳ごうとせず、浮くことに専念して、手を振って助けを呼びましょう。

離岸流から身を守るには

 海水浴に行かれる際は、当日の天気予報や気象情報で風の強さや波の高さなどを知っておくことが大切です。これから台風シーズンになりますが、台風が日本から遠く離れた所にあっても、台風からのうねりが入って離岸流が発生することもありますので、十分注意してください。

 (気象予報士・久保智子)

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