れいわ新選組は「全員が主人公の映画」である 【後編】(畠山理仁)

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本記事は前編・後編の二部構成です。前編はこちらです。

ロケ地の字幕が目に浮かぶ光景

れいわ新選組の街頭演説に集まる聴衆(撮影・畠山理仁)

参議院選公示前日の7月3日。山本は約400人の支援者たちの前で「特定枠」についての説明をした。れいわ新選組が「比例で3議席以上を獲得」しなければ、山本は落選する。突然、衝撃の事実を告げられて息を呑む支援者たちに、山本はこう叫んだ。
「それぐらいやるだろうって話ですよ! 本気見せるときだろうってこと! 上等、背水の陣で! 身を切る改革って、こういうことを言うんじゃないのか!」
報道陣から「特定枠」の真意を聞かれた時、山本はこう答えている。
「重度障害者や難病の方の尊厳を守れる社会なら、全員が救われる社会です」
この世の中は、数多くの「無名の当事者」で成り立つ。そして、選挙に出る権利は誰もが等しく持つ。山本の選挙戦略は、その基本を改めて思い起こさせるものだった。
山本自身は東京選挙区を離れて比例に回った。その地盤を引き継いで東京選挙区で戦ったのは、沖縄創価学会壮年部の野原ヨシマサだ。野原が立候補した東京選挙区には、創価学会を支持母体とする公明党の代表・山口那津男がいた。

「人のケンカほど面白いものはない。ややこしい大人が挑むガチンコの戦い、見たくはありませんか!? 東京選挙区で戦うのは、この人、野原〜ヨシィ〜マサァ〜!」
都内で開かれる街頭演説の際、山本はまるでプロレスのリングアナウンサーのような節回しで野原を会場に呼び込んだ。
街頭演説の場所も、まるで映画のロケ地のように「画になる」場所を選んだ。
野原は選挙戦を通じて、創価学会が支持する公明党がすでに「平和の党」ではなくなってしまっていると主張した。街頭演説では創価学会の池田大作名誉会長の言葉を引用しながら、創価学会員たちに呼びかけた。
「『将来公明党が政権になびいて立党の精神である平和福祉を忘れた場合には、そして国民をいじめるようになったときには、その時には遠慮なく潰していいよ』って言われたんです。私が勝手に言っているんじゃないんです。池田先生がそうおっしゃってるんです」
その野原が街頭演説の場所に選んだのは、創価学会本部がある「信濃町」だ。場所の選定は山本からもアドバイスを受けたという。野原は信濃町駅前だけでは飽き足らず、歩いて創価学会本部の目の前に移動し、そこでも街頭演説を行った。野原の後ろでは、訴えに共感する創価学会員たちが「三色旗」を振っていた。

野原が本部前で演説した日は休日だったため、本部の門は閉まっていた。人の気配もなかった。しかし、創価学会員が本部の前で公明党批判を展開する映像は、「ロケ地:信濃町」という字幕を入れたくなるような光景だった。
こうした「れいわ新選組」の選挙戦は、党のオフィシャルカメラがずっと記録してきた。また、党のオフィシャルカメラとは別に、『ゆきゆきて、神軍』で知られるドキュメンタリー監督の原一男も撮影していた。原一男は、安冨歩の選挙戦を中心に、れいわ新選組の選挙戦を公示前から撮影している。

れいわ新選組は4億円以上の寄付を集めた(撮影・畠山理仁)

今回の参院選では、2人の重度身体障害者が同時に当選した。選挙戦では人々の大きなうねりも起きた。世界を見ても、こんな選挙は珍しい。その一部始終を記録したドキュメンタリー作品は、世界でも必ず大きな話題になるだろう。「賞」を受賞してもしなくても、山本太郎はプロデューサーとして歴史的な仕事をしたことになる。4億円を超える寄付をした3万3千人以上の寄付者=「主人公」たちも、大いに喜ぶに違いない。

自力で乗り越えた「差別の壁」

今回の参院選で、山本太郎は比例の全候補者155人中、最多となる99万2267票(22日時点)を獲得した。しかし、れいわ新選組が3議席以上を獲得できなかったため、山本自身は落選した。それでも筆者は「山本太郎が勝った」と考えている。
理由は簡単だ。今回の参院選の勝敗ラインは、「当事者の当選」と「政党要件を満たすこと」にあったからだ。これは特定枠を使って2人を国会に押し上げる戦略を取ったこと、山本自身が東京選挙区での1議席にこだわらず、「2%以上の得票」を目指して比例で立候補したことからも明らかだ。
今回の参院選の結果が出るまで、「れいわ新選組」は公職選挙法が規定する「政党要件」(「国会議員5人以上」もしくは「直近の衆院選または参院選で、選挙区か比例代表の得票率が2%以上」)を満たしていなかった。テレビ・新聞は従来どおり「諸派」として扱ったため、既存メディアに登場することはほとんどなかった。

新規参入者にとって「政党要件がない」ことは、極めて高い「差別の壁」だ。この壁に阻まれて、日本の政界にはなかなか新しい風が吹きこまれてこなかった。挑戦して敗れれば、立ち直れないほどのダメージを受ける。だから挑戦しようという者もなかなか現れない。
いつも同じ顔ぶれの俳優しか出てこないドラマが飽きられるのは当然だ。こうした閉塞感が投票率の低下という「政治への諦め」の一因になってきたことは容易に想像できる。
そんな圧倒的に不利な条件で戦ったにもかかわらず、れいわ新選組は比例で228万764票(得票率4.55%)を獲得した。そして、議席数を改選前の1から2に増やした。政党要件を満たさない団体が比例で議席を獲得した例は、2001年に非拘束名簿式が導入されてから一度もない、つまり、れいわ新選組は史上初の快挙を成し遂げたのだ(※同じく「諸派」扱いされた「NHKから国民を守る党」も今回1議席を獲得した)。
ここで、テレビや新聞が選挙期間中、どれだけ多くの「主人公」たちを無視してきたかを書いておかねばならない。
参議院選で使える公選はがきの法定枚数は15万枚である。今回、れいわ新選組から公選はがきを受け取り、知り合いを紹介した人の数は1万1千人にのぼる。その人々が宛名を書いたはがきの数は約22万枚。規定枚数を7万枚以上超えるエネルギーが集まってた。
街中に貼られた山本太郎の個人ポスターは7万枚。政党ポスターは2万枚。山本個人のビラは20万枚、政策ビラは250万枚が配布された。選挙期間中に事務所を訪れたボランティアは、把握できているだけでも3500人以上。街頭演説に足を運んだ人の数も、正確な数字が取れないほど多かった。明らかに報道機関が無視していい人数ではなかった。

「弾はまだ残っとるがよう」

結党からわずか3ヶ月半。れいわ新選組は、テレビや新聞から「黙殺」されながらも、インターネットや草の根で支援の輪を広げていった。そしてメディアの「自主規制の壁」を自力で乗り越えた。換言すれば、既存メディアの差別的扱いに勝利した「初めての諸派」だ。
特筆すべきは、従来の選挙の定石に頼らず、「無名の当事者たち」で戦って政党要件を満たしたことにある。つまり、政治の世界に新たな可能性があることを世の中に知らしめた。
今回、多くの当事者を擁立したことで、れいわ新選組からの立候補を望む当事者が続々と手を挙げるだろう。これは、より多くの人を「政治の主人公」にすることを意味する。そして今回、れいわ新選組が使わなかった選挙戦術には、テレビCMや著名人候補擁立という極めて有効なカードが残されている。映画『仁義なき戦い』の名台詞を引用すれば、「弾はまだ残っとるがよう」という状態だ。
一方、既存政党は万策を尽くしての今回の結果だ。「伸びしろのある勝ち方」をしていない。既存政党と同等の扱いをされる次回以降の選挙で、れいわ新選組がこれらの弾を打ったら、どれほど躍進するのだろうか。今後はれいわ新選組に、起爆剤としての役割を期待する勢力が現れてもおかしくない。

「時空の歪みを利用して総理大臣になりたい」

4月の結党以来、山本は「私を総理大臣にしてください。政権取らせて下さい」と全国各地の遊説で訴えてきた。つまり、山本が設定したゴールは参議院議員選挙ではなかった。だから今回は、山本が議席を失っても大きな問題とはならない。次にめざす通過点は、山本が衆議院選挙で議席を得て総理大臣になることだ。
筆者は参院選期間中、山本太郎にこんな質問をしている。
「今回の参院選で落選したら今後はどうするのか。いつ総理になるのか。10年後か」
山本は笑顔を交えながらこう答えた。
「それぐらいロングスパンだったら楽ですね。3年から5年のうちに、時空の歪みを利用して総理大臣になりたい。それまで日本という国があったら、の話ですが(笑)」
本気なのか冗談なのかはわからない。れいわ新選組が「時空の歪み」を生めるほど、資金や票の匂いを政界に振りまけるかも未知数だ。それでも山本は街頭で叫び続けた。

れいわ新選組代表・山本太郎氏(撮影・畠山理仁)

「山本太郎なんて大嫌い! 名前を書けるわけないと思われるのも無理はない。だから私以外に素晴らしいメンバーを揃えました。私のことは嫌いになっても、れいわ新選組のことは嫌いにならないで!」
初陣となる参院選選挙で、山本は2人の「当事者」を国会に送り出すことに成功した。当初の狙い通り政党要件も満たし、「国政政党の代表」としての発言権を得た。次期衆院選では、「100人単位で候補者を立てる」とも宣言した。テレビの側も、これからは「山本太郎を出演させない理屈」を考えることが極めて難しくなるだろう。
選挙前は「テレビから無視されるたった一人の参議院議員」だった。それがいまや、「日本一発言が注目される無職の一人」「市民が作った国政政党の代表」である。
山本が自身の議席をかけて挑んだ戦いの成果は、「大きな発言力」となって返ってきた。ここまでの山本の戦略を「勝ち」と言わずして、なんと呼べばいいのだろうか。
「れいわ新選組」は、選挙に関わるすべての人たちを巻き込み、その一人ひとりを「主人公」にする。山本の落選によりようやく始まった「映画」の本編は、あくまでも次の衆議院議員総選挙である。
(文中敬称略・了)


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