利用率「伸び悩む」 電子書籍貸し出し導入1年 綾瀬

個人の端末で利用できる電子図書館サービスをPRする稲垣館長=綾瀬市立図書館、2019年7月26日撮影

 綾瀬市立図書館(同市深谷中)が2018年度に電子書籍の貸し出しサービスを開始してから1年余りが経過した。公立図書館での導入例が少ない中、蔵書を約1万3千冊と豊富にそろえたが、18年度1年間の貸出状況は約1300人、約5600冊(ともに延べ数)と思いのほか伸び悩んだ。同館は認知度の低さや利用者ニーズを満たせなかったのが要因として地道にPRや蔵書充実に取り組んでいくという。

 同館が昨年度始めた「電子図書館」は、インターネットを通じて電子書籍を24時間無料で貸し出す事業。利用には事前登録し、専用IDとパスワードの発行が必要で、パソコンやタブレット端末、スマートフォンで閲覧できる。

 県内に例がない規模の1万3023冊の蔵書をそろえたが、背景にあるのは、市内に鉄道駅がなく、交通利便性が悪いという同市ならではの地域事情だ。

 隣接する大和市や、海老名市が「市民の居場所づくり」や「駅前のにぎわい創出」を目指し滞在型の図書館改革に着手する中、来館しなくても本に親しめる読書環境を提供するという独自の「アウトリーチ(出張)・サービス」の考えを打ち出した。

 また、同館では蔵書が収容能力を超過している問題にも直面。電子書籍は購入費がやや割高だが、物理的スペースが要らないなどの利点があったという。

 ただ同館によると、昨年度の登録者は1058人と思ったほど伸びていない。このうち、本離れが指摘されているものの、デジタル環境になじんでいる若年層(22歳以下)も79人にとどまった。延べ利用者は1358人で、貸出総数は延べ数で5664冊だった。

 同館の稲垣和雄館長は「全国的にも導入事例が少なく、電子図書館に対する認知度はまだ低い。スマホなど端末利用へ不慣れな高齢者も少なくない」と指摘する。同館の指定管理者が昨年11月に実施した図書館利用者アンケートでも電子書籍の貸し出しサービスを「利用はしない」が77%で最も多く、「知らなかった」も12%だった。

 一方、稲垣館長は「利用者のニーズに応えられなかった」とも分析。初年度にそろえた蔵書の内訳は、著作権が切れた著名な文学作品などが電子書籍化(無料公開)されている「青空文庫」が1万1119冊と大半を占め、新刊本や実用書など購入したのは1902冊だった。電子書籍市場がいまだ成熟していない中、アンケートでは、電子図書館の資料充実を求める意見もあった。

 同館は昨年10月に「使ってみよう電子図書館」と題した講座を開催するなど啓発活動を実施した。今後は蔵書を22年度までに約2万冊に増やしていく予定。稲垣館長は「電子書籍は文字拡大など読書支援機能があり、一度体験してほしい」と呼び掛けている。

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