<隠れた名盤> 前川清『マイ・フェイバリット・ソングス~ジャパニーズ~4』 女性歌手の楽曲で際立つ「前川節」

前川清『マイ・フェイバリット・ソングス~ジャパニーズ~4』

 前川清のカバー集第4弾。過去3作は、古き洋楽カバー集だったのに、既定路線に変更したと思うのは大きな誤解。日本語の分だけ、より深い前川ワールドが堪能できる。

 全12曲、昭和40年代から平成初期までの演歌・歌謡曲の名曲をカバー。同時期チャート上位を争った森進一(『女のためいき』)や、かつて夫婦だった藤圭子(『京都から博多まで』)、大先輩の北島三郎(『風雪ながれ旅』)など、遠慮のない選曲も良い。

 中でも、女性歌手の楽曲で前川節の魅力が際立つ。『河内おとこ節』『舟唄』『越冬つばめ』など、いずれもサビの熱唱に各歌手の魅力が詰まった名曲だが、前川は軽やかなのに深い歌声を披露しているのだ。もしかして、顔をしかめつつ、直立不動で歌うことがこの絶妙なバランスに繋がっているのだろうか。

 他にも、『天城越え』では「あまぎーぃーぃー」という前川節が見事にミックスされているし、『契り』では、五木ひろし版とはまた違った平和への想いが高らかな歌声で伝わる。いずれも、元の歌い手や作家に対する想いに溢れており、あらためて歌手・前川清のスゴさに触れた気がした。

 ラストは、『君は薔薇より美しい』でディープに締めるというのもヤリすぎで良い。本作を聴けば、ちょっとやそっとの努力で「オンリーワン」を語るべからずと自戒するはず。

(テイチク・2778円+税)=臼井孝

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