やっぱり味気ない? 車名が数字だけになってしまった理由は?

マツダ マツダ3 ファストバック(欧州仕様)

数字だけの名前だと愛着が湧かない?

911、124、2002、5,205、156、500……。もちろんこの数字は暗号ではない。

輸入車好きならすぐに気づいたと思うが、これは、日本で人気となった数字車名の輸入車を古い順にならべたもの。つまり、ポルシェ 911、フィアット 124(スパイダー)、BMW 2002、ルノー 5、プジョー 205、アルファロメオ 156、そしてフィアット 500だ。数えてみると思った以上に少なくて、日本のクルマ文化が、数字の車名に馴染みが薄かったことがうかがえる。

そんな中で、ついこの間、数字だけの車名表記に舵を切ったのがマツダだ。

2019年5月にフルモデルチェンジしたマツダ アクセラは、同時にマツダ3に改名。同年7月にはアテンザがマツダ6、続いてデミオもマツダ2と改名し、マツダのメイン車種があっという間に欧米と同じ名前に変わってしまった。この数年、マツダのカーデザインとクルマの性能は世界的に評価を高めているから、まさに日本における車名の変更はタイムリーな世界戦略といえる。

しかしそこにはしっかりとした下地があった。

マツダはヨーロッパでのメイン車種構成を、一番小さいBセグメントにマツダ121、コンパクトともいわれるCセグメントにマツダ323、より大きなDセグメントをマツダ626と、ヨーロッパ流の車名にして、それぞれのイメージを作っていったのだ。後にそれぞれマツダ2、マツダ3、マツダ6と車名を変えて、アメリカにも同じように拡大すると、最後は日本にやってきた。これでマツダは、文字通りの世界戦略車を手にしたわけだ。

MINI JCW クラブマン カントリーマン

クルマのペットネームはもう流行らないのか?

「名は体を表す」ということわざの通り、車名、ペットネームには最初のイメージがついて回る。だから、マツダでいえばファミリアからアクセラのように、クルマが大きく変わる場合には、名前ごと変えねばならないことにもなる。国外に出せば、その名前が商標的に使えないこともままある。近年の例では、ミニ クロスオーバー。ドイツなどではカントリーマンだが、日本では商標を押さえられていたのでクロスオーバーになったという経緯がある。また、現地の言葉ではネガティブな表現になるような場合もあり、ペットネームが世界戦略車にとって不合理なところは多いのだ。

そこで、数字の車名での世界戦略に先鞭をつけたBMWだ。百の位がシリーズ名で、十の位と一の位で排気量を表す、独特な3桁表記を始めたのは1972年の5シリーズからだった。シンプルかつ車種情報も入ったこの表記法は、今でもクールでスタイリッシュだ。クルマ自体も素晴らしいが、数字が大きくなるほど高級・高性能になるBMWの車種体系は、分かりやすく憧れを抱きやすかった。

その一方で、最近のBMWは車種の幅が広がりすぎたことで、数字がそのまま排気量ではないクルマも増えてきた。数字の車名が、逆にクルマを窮屈なイメージにしているところもある気がする。

数字の車名は、合理的な分だけペットネームのような身近さは薄くなる。自動車マーケティングの本場、アメリカでは未だにペットネームが根強いし、そのペットネームを愛するオーナーもまだ多い。その一方、自動運転技術などの発達でクルマが交通システムにしっかり組み込まれるなら、クルマの名前は数字の方が断然使いやすい。だから、これからも数字の車名が増えていくのは間違いないだろう。しかし、クルマが個人の所有物で、運転をするオーナーがいる限り、ペットネームが消えることがないのも確かなことに違いない。

[筆者:永田 トモオ]

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