ロボットピザにソクラテス! 論理学のおもしろさはどこにある?

「トライリンガル教育」を推奨するYES International Schoolの校長である竹内薫先生。そのYES International Schoolは先日ようやく終業式を迎えました。今回はトライリンガル教育における算数授業の続きです。

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ロボットピザの問題

YES International Schoolでは、(原則として)決まった教科書は使いません。ここのところ私の授業では『問題解決力がつく数学プロブレム』(オリヴァー・ローダー編、熊谷玲美訳、早川書房)という書物に載っていた問題を上級生と一緒に解いています(もともとインターネットの有名サイトの問題を集めたものだそうです)。

問題ロボットが丸いピザパイをランダムに3回切る場合、ピザは、平均して何ピースに分かれるか?

うん? 簡単なようで、いざ考えはじめるとさまざまな疑問が湧いてきて、超難問であることがわかります。

私みたいに元プログラマーであれば、まずはプログラムを書いて走らせてみて、それから頭で考える癖がついています。最初にモンテカルロ法(=賭け事みたいな確率を使うプログラム)でシミュレーションしてしまい、統計的・確率的に答えがわかったところで、解析的(?)に解くのです。

でも、まだモンテカルロ法に馴染みのない子どもたちにとっては、まさに「確率」という概念を学ぶための良問だったりするのです。

円の周囲には、0から2πという「座標」がついています(と考えます)。そこで、0から2πの間の実数(=小数点の数)をランダムに発生させます。たとえば「RND」(=RANDOMの省略形)といったような命令文を使うのです。続けて2回、ランダムに数を発生させたら、その2点を直線で結びます。もう2回ランダム数を発生させて、それも結びます。最後に2回ランダム数を発生させて、それを結びます。これが、ロボットがランダムに3回、ピザを切った状況です。

数は6個ともランダムに発生させたので、毎回、切り分けられる枚数は異なるでしょうが、いくつか図を描いてみればわかるように、その枚数は、最低で4枚、最高で7枚になります。たとえば、最初の6個の乱数で、ピザが6枚に切り分けられたとしましょう。次の6個では5枚、さらに次の6個では4枚……この仮想的な切り分けを何千回、何万回とおこない、切り分けられる枚数の平均を計算すると、その数は、徐々に5枚に近づいていくのです!

紙と鉛筆で問題を解いてみる

さて、コンピューターの計算はおいておいて、人間が紙と鉛筆で考える場合はどうなるでしょう?

確率の問題としては、とにかく、6個のランダムな点が「かぶらない」ことに気づく必要があります。円周上には無数の点があり、そこからたった6個だけがランダムに選ばれるのですから、まったく同一の点が選ばれる確率はゼロ。もちろん、きわめて近くの点が選ばれる可能性はありますが、それでも有限の距離だけ離れています。ということは、円周上の6個の点を見て考えるべきことは、それらが「どういう順番で選ばれたか」だけ。

なぜなら、最初と二番目の点がつながり、三番目と四番目の点がつながり、五番目と六番目の点がつながるのですから、たとえば、時計の12時、1時、5時、6時、9時、10時の6つの点が、どういう順番で選ばれたかによって、交点の数、すなわち切り分けられるピザの枚数が決まるからです。

ええと、わかりにくいので、もうちょっと解説します。

この際、6つの点のそれぞれが円周上の「どこらへんにあるか」は問題とはならず、どこでもいい(ランダムに散らばるのだから!)。とにかく、6つの点を選んだとして、それらが選ばれた「順番」を考えるのです。

もう少し比喩的に考えてみましょう。

6つの点が6つの野球チームだとしたら、どういう「対戦カード」になるかを調べればよいのです。第一試合がジャイアンツとベイスターズ、第二試合がタイガースとドラゴンズ、第三試合がカープとスワローズだったら、切り分けられたピザの枚数は4枚、みたいに計算できるわけですね。

ということは、切り分けのパターンは、6チームの総当たり戦と同じだけあるわけです。書き出してみればわかるように、それは15カード(パターン)しかありません。(最初の試合、もとい、最初のカットで切り分けられた部分は凄く細いけれど食べられる)

そして、この15パターンから、切り分けの平均枚数を計算すると、答えは「5枚」になる!(興味ある読者は15パターンを描いて、平均枚数を計算してみてくださいね)

ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか〜

『問題解決力がつく数学プロブレム』(オリヴァー・ローダー編、熊谷玲美訳、早川書房)からお次の問題!(子どものために問題の表現はアレンジしてあります)

問題ソクラテスとプラトンとアリストテレスが階段教室で前後に並んで座っている。ソクラテスが一番前で一番低い。次の段がプラトンで、さらにその後ろの高みにアリストテレスが座っている。そこにデカルトがやってきてこう言った。

「ギリシャ哲人のみなさん、目をつむってください。ここに黒い帽子が2つと白い帽子が3つあります。そのうち3つを選んでみなさんにかぶってもらいます」

デカルトは三人に帽子をかぶせた。

「みなさんは後ろを向いてはいけません。ずっと前を見ていてください。さて、ご自分の帽子の色がわかった人はいますか?」

だが、誰も答えない。デカルトは再び訊ねた。

「ご自分の帽子の色がわかった人はいますか?」

ふたたび誰も答えない。デカルトは辛抱強くもう一度訊ねた。

「ご自分の帽子の色がわかった人はいますか?」

すると一人が手をあげて色を答えた。いったい誰が手をあげたのだろう? また、答えた色は白だったのか黒だったのか?

(数学好きの読者のみなさまは、ここで立ち止まって、じっくりと考えてみてください!)

いやあ、ワクワクするような論理の問題です。子どもたちは大喜び。でも、すぐに答えを言おうとするので釘を刺します。

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「そんなに簡単にわかる問題じゃないよ〜。15分間考えたら答えを言っていいからね」

15分後、残念ながら正解者は出ませんでした。その日の授業は時間切れとなり、数日持ち越すことに。

***

二回目の授業では、Mくんが最初の一歩を踏み出しました。

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「もしもソクラテスとプラトンの帽子が両方とも黒だったら、アリストテレスは自分の帽子が白だとわかったはず。でも最初に訊かれたときにアリストテレスは手を挙げなかったのだから、ソクラテスとプラトンが二人とも黒をかぶっていたわけじゃないことがわかります」

まずはそこです。そう、黒い帽子は二つしかありません。だから、前の二人が共に黒だったら、一番後ろに座っているアリストテレスは自分が白帽だとわかるはずなのです。

でも、ここからが難しい。論理的にじっくり考えないといけません。

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「みんな、最初にデカルトが質問したのに誰も手をあげなかったとき、ソクラテスとプラトンには何がわかったんだろうね?」

少しヒントを出してあげます。すると、しばし考えた後、数名の子どもたちの手があがりました。Rさんを指すと、理路整然と状況をまとめました。

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「ええと、ソクラテスとプラトンが、白と白か、白と黒か、黒と白をかぶっていることがわかったんだと思います」

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「そうだね。ソクラテスとプラトンは、黒黒じゃないんだから、白白、白黒、黒白のどれかだね。じゃあ、大ヒントだけど、プラトンは、どうして二回目にデカルトが質問したときに手をあげなかったの?」

今度は、数秒考えただけで子どもたちの手があがりました。Tくんに答えてもらいます。

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「ソクラテスが黒帽だったら、ソクラテスとプラトンは黒白、つまり、プラトンは自分が白帽だとわかるから、二回目に答えたはず。でも、答えなかったのだから、ソクラテスは黒帽じゃなかったんだ!」

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「そうだね。いまTくんが答えたことは、ソクラテスにもプラトンにもアリストテレスにもわかっているよね? だとしたら、デカルトの三回目の質問のときに手をあげて自分の帽子の色を当てたのは誰で、それは何色かな?」

生徒全員が大騒ぎで手をあげました。我慢しきれなくなって、もう答えを叫んでしまう子までいます。

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「ソクラテスが自分は白だと答えた!」

そうなのです。ソクラテスとプラトンは黒黒でもなく、黒白でもないことがデカルトによる二回の質問でわかりました。残る可能性は白白と白黒、すなわち、ソクラテスは白帽に決まる!

ここではさらりと流れを書いてしまいましたが、三回の授業を使って、じっくりと考えた問題です。子どもたちは、各自、この問題を自宅に持ち帰って、お父さんとお母さんに問題を出すのだと喜んでいました。

いやあ、論理学ってメチャクチャ楽しいですよね〜。学期末を迎え、サマースクールに突入しておりますが、来期に向けて、いろんな問題をリサーチ中。次はどんな奇抜な算数問題に遭遇することやら。

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