隣人トラブルが雪だるま式に膨れ上がり報復合戦に突入! 憎悪の玉突き事故を描く『隣の影』はもはや戦争映画だ

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

オープニングから気まずさMAX! 静かだけど破壊力抜群

この映画は、男がノートパソコンを開き、オナニーをおっぱじめようとするところからはじまる。と、部屋に入ってくる男の妻。

「アンタ何やってんの? これ映ってるのアンタじゃない!」

男は大事に保存していた元カノとのセックス動画を観ていたのだった……。

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)並みに、オープニングからかっ飛ばしてくれる映画だ。ただしこちらは、魚雷をたんまり搭載した潜水艦のよう。静かだけど破壊力は抜群だ。

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

1本の木が隣人バトルの狼煙を上げる

旦那史上稀に見る醜態を晒した男の名はアトリ。当然ながら彼は家を出て行かざるを得なくなり、ひとり娘とも離れ離れ、実家に帰ってくる。実家では年老いた母親インガと父親バルドウィンが、やんわり迎えてくれる。ちなみにインガは、長男(アトリの兄)が行方不明になってから情緒不安定だ。

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

インガとバルドウィンの家の隣には、同じような形式、規模の家が建っている。住んでいるのはいわゆる「妊活」に勤しむ中年夫婦のエイビョルグとコンラウズ。エイビョルグは老いてなお、美を追求する女で日光浴が日課だ。しかし、隣家の庭にそそり立つ巨木が庭に影を作り、満足に日光浴ができない。だいぶ前から巨木の伐採を頼んでいるのに、いったいいつになるのやら!

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

まるで戦争映画のような教訓を与えてくれる

隣人トラブルという世界共通の問題から、人間の浅はかさや愚かさを、低温で淡々と皮肉たっぷり、かつキレ味良く描いていく。

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

些細な隣人トラブルはちょっとした嫌がらせ合戦になり、問題の根本が置いてけぼりになった報復合戦を経て、憎悪が玉突き事故を起こす。タガが外れてしまえば誰だって人間は超残酷になれる、という戦争映画のような教訓さえ受け取れる。というか、これはもはや隣人同士の戦争なのだ。実際、戦争と同じように弱者が真っ先に犠牲になる。この映画の弱者はペットたちだ……。

『隣の影』2017©Netop Films. Profile Pictures. Madants

しかしまぁ、この映画に出てくる男たちは、一様に問題が起きてからの動きがやたら鈍く、女性は皆感情的で動きが早い。ほとんどの問題は、男たちがしっかりしていればコトも大きくならなかっただろう。同性の男として、胃がぶっ壊れそうになりながら見守った……。

文:市川力夫

『隣の影』は2019年7月27日(土)よりユーロスペースにてロードショー

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