河北春秋(8/1):ディープインパクトと聞くと、一編の詩を思…

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 ディープインパクトと聞くと、一編の詩を思い出す。詩人鮎川信夫の『競馬場にて』の一節。<嵐のなかの、狂気のなかの 直線コース 飛ぶ馬が跳ねる馬を追いこした 怒濤(どとう)のなかの歓呼、歓呼のなかの怒濤>。別の馬をうたった詩だが、イメージが重なる▼華麗な走りは天馬に例えられた。手綱を取った武豊騎手は「空を飛ぶ感じ」と語った。圧巻はラストスパート。最後の直線で力を一気に爆発させ、大きなストライドで他の馬を置き去りにした。異次元の強さに競馬ファンのみならず、全国の人々が熱狂した▼GIレース最多タイの7勝を挙げた名馬ディープインパクトが死んだ。2005年、皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、無敗で3冠を獲得。速さ、体力、運の全てを持った馬にしか達成できない偉業だった▼名馬だった父親の血筋を受け継いだ。子どもの頃は厩務(きゅうむ)員が牡かどうかを確かめるため、股をのぞいてみるほど小柄でかわいい顔をしていたという。引退後は種牡馬として活躍。国内外のレースを制する良馬を次々誕生させ、この分野でも他を寄せ付けなかった▼骨折のため安楽死の処置が取られた。17歳だった。多くの人に夢を運び、風のように駆け抜けた一生。史上最強と言われた英雄は、伝説の馬となって天空に飛んでいった。(2019.8.1)