短剣のような言葉

 主人公が自分自身に言い聞かせる。〈短剣のような言葉で話そう。だが、短剣そのものは使うまい〉。シェークスピアの「ハムレット」の一場面にある▲暴力まがいの行いは禁じ手とし、筋の通った、研ぎ澄まされた言葉で話をしよう。そういった意味だろう。とすれば「短剣のような言葉」は、外交の場にこそ欠かせないはずだが、どうも出番がない。「短剣そのもの」ばかりが用いられる▲北朝鮮はこのところ、短剣を振り回しては危うさを増している。きのうまた、短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。近く予定される米韓合同の軍事演習への反発とみられる▲5月に2回飛ばし、7月25日にまた発射した。北朝鮮がいま本気でやるべきは「非核化」をおいて他にない。それなのに、警告や脅しの道具として矢継ぎ早にミサイルを飛ばすことに執心している▲「短距離」ならば脅威には当たらない、ということだろうか、米国は「北」の行状をとがめない構えらしい。「北」もまた、米国の機嫌を損ねないと踏んだ上で、短距離にとどめた節がある▲きょうから8月、非核化を求める声が音量を増す「長崎原爆の日」が近い。ハムレットの独白は聞こえず、脅しの場面か、腹を探り合う場面ばかりだが、そうした中でも短剣のような言葉を探るほかない。(徹)

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