吉野家で70%還元、「メルペイ」大盤振る舞いの思惑

メルカリが展開するスマートフォン決済「メルペイ」。これまでにゴールデンウィークと6月に大規模なポイント還元キャンペーンを打ち出してきましたが、今回新たに8月1日から第3弾のキャンペーンを始めました。

今回の特徴は、70%のポイント還元が受けられる店舗として、既存のコンビニに加えて、新たに吉野家とマクドナルドというファストフードチェーン2社が加わったこと。その背景には、どんな思惑があるのでしょうか。


マックやコンビニも対象

8月1~11日の期間限定で始まった、メルペイの「ニッポンの夏!最大70%ポイント還元!キャンペーン」。期間中に「メルペイあと払い」を利用して決済すると、支払額の50%相当もしくは70%相当が翌日にポイントで利用客に還元される仕組みです(還元の上限は期間中合計1,500ポイント)。

最大の70%相当が還元されるのは、第2回のキャンペーンでも対象だったセブン-イレブン、ファミリーマートに加えて、ローソン、ミニストップ、デイリーヤマザキ、ポプラグループ、吉野家、マクドナルドとなっています。このうち、羽田空港国際旅客ターミナル店など一部の吉野家店舗では、70%ではなく、50%相当分の還元となります。

既存のコンビニに加えて、牛丼などのファストフードも対象に

キャンペーンの対象となるには、8月11日までにメルカリアプリ内で「お店でのあと払い設定」をして、キャンペーン期間中にメルペイあと払いで支払いをしていること。ただし、期間中に初めて本人確認をした場合は、メルペイあと払いに加えて、事前チャージでの支払いでもキャンペーンの対象となります。

今回のキャンペーンを活用すれば、吉野家で牛丼並盛を注文した場合、税込み380円のところ、実質114円になる計算。自動販売機で缶ジュースを買うよりも安い価格で、牛丼並盛が食べられるわけです。

利用客にも店舗にもメリット

かなりの大盤振る舞いとなっている、今回のキャンペーン。吉野家には、大きく分けて2つの思惑があるようです。

1つ目は、利用客の利便性向上。同社では、利用客がストレスを感じず、手っ取り早く料金を支払えるよう、各種の電子マネー導入を進めています。その結果、年初には6~7%だったキャッシュレス決済比率は、足元では10%を突破。新しいブランドを追加するたびに、比率が上がっているといいます。

「iD」マークのある店舗などで決済可能

特に都心部の店舗では、キャッシュレス決済の利用拡大が顕著。有楽町店では、全時間帯で4割程度、昼のピーク時には半分近くの利用客がキャッシュレス決済をしているそうです。

キャッシュレス比率が高まると、会計がスムーズになり、店舗側の労働負荷も低減できます。10月からは消費税率が変わり、小銭のやり取りが煩雑になることも想定され、利用客・店舗ともに決済時のスピード対応が可能になるメリットは大きいと考えられます。

吉野家とメルペイがベストマッチの理由

1つ目の思惑以上に、吉野家にとって効果が見込まれるのが、新規客層の開拓です。

フリマアプリ「メルカリ」の利用者層は女性が全体の6割、10~20代が全体の46%となっています。こうした客層は「吉野家に最も来店してくれない層と合致します」(吉野家の伊東正明常務)。

また、メルペイの売りの1つは、自分にとって不要になった物をメルカリで売り、それによって得たポイントを生活の中で利用してもらえる点。これが「日常食の小売店である吉野家にとっては大変ありがたい」(同)といいます。

さらに、全国に展開する約1,200店の吉野家のうち、約800店が郊外立地。こうした店舗ではテイクアウトの利用が多く、テイクアウトの利用は女性が多いそうです(イートインは男女比が8:2、テイクアウトは5:5)。

テイクアウトでの利用が多い女性客の取り込みを狙う

メルカリ利用者が多いメルペイユーザーの女性に吉野家の店舗へ来てもらえれば、手薄だった若年の女性客や、それにひもづく郊外店でのテイクアウト利用が増えるというのが、吉野家側の思惑なのです。

「あと払い」で他の決済と差別化

一方、今回のキャンペーン費用は「メルカリ側の負担が基本」(メルペイの山代真啓ディレクター)。費用の大部分を同社が負担しているとみられます。そんな多額の費用を負担してもメルペイが推し進めたいのが、メルペイあと払いの利用促進です。

一般的なQRコード決済は、買い物をする前に銀行口座などからチャージしておく必要があります。この場合、利用者側には「チャージした金額を使いきれなかったらどうしよう」という不安が付きまといます。

しかし、メルペイあと払いであれば、事前のチャージは不要で、使った分だけ支払えば大丈夫。月額300円の手数料がかかるものの、キャンペーンなどで手数料以上のポイント還元を受けられれば、利用者にとってはメリットとなります。

こうした事前チャージ不要という利便性が受けて、メルペイの登録者数は6月に200万を突破。山代ディレクターによると、当初の計画以上のペースだといいます。

説明会に臨む、メルペイの山代ディレクター(左)と吉野家の伊東常務

初回のゴールデンウィークのキャンペーン時には金融リテラシーの高い30~40代の男性の利用が多かったそうですが、6月のキャンペーンではママ層や若い女性の利用が増えたとのこと。

今回のキャンペーンでも、「支払いの速さに加えて、チャージレスの利便性を体験として味わってもらいたい。なかなか動かない、若い女性のキャッシュレス化に向き合っていきたい」と、山代ディレクターは語ります。

決済事業者各社が巨額の資金を投じ、利用客の取り込みに邁進しているキャッシュレス決済市場。今回のメルペイの取り組みは、勢力図にどのような変化をもたらすでしょうか。

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