住宅ローンに消えた退職金、老後は貯蓄1000万で足りる?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、退職金をすべて住宅ローンの返済に充てたという61歳の男性。老後資金として使える貯蓄は、およそ1000万円しかありません。これでは足りないのでしょうか。FPの高山一恵氏がお答えします。

58歳のときに自己都合で退職し、退職金で家のローンを支払ったため残金はありません。私は現在アルバイトで働き月8万円、妻はパートで月6万円~10万円稼いでいます。長男が4万円、次男が1万円、同居する義母が3万円、家に入れてくれています。特別支給の年金が63歳から約155万円、65歳から約234万円支給される予定です。これから家具・家電の買い替えや家の修繕費などにもお金がかかってきます。妻は貯蓄の1000万円から出せばいいと言いますが、この先介護費用や葬式費用もかかると思うと手をつけたくありません。そもそも、夫婦2人で老後に貯蓄1000万円では足りないのでしょうか。

〈相談者プロフィール〉
・男性、61歳、既婚(妻:58歳、会社員)、子供2人(33歳、24歳)
・職業:パート・アルバイト
・居住形態:持ち家(戸建て)
・毎月の世帯の手取り金額:26万円
(夫8万円、妻10万円、長男4万円、次男1万円、義母3万円)
・年間の世帯の手取りボーナス額:なし
・毎月の世帯の支出目安:約26万円

【資産状況】
・毎月の貯蓄額:なし
・現在の貯蓄総額:1000万円
・現在の投資総額:170万円
・現在の負債総額:なし

【支出の内訳】
・住居費:なし
・食費:8万円
・水道光熱費:2.3万円
・教育費:なし
・保険料:4万円
・通信費:1.5万円
・車両費:1万円
・お小遣い:4万円
・その他:5万円


高山:ご質問ありがとうございます。

少し前まで6月に金融庁が出した報告書が世間を賑わせていましたね。報告書によると、私たちの老後の生活費は、公的年金だけでは賄えず、「2000万円足りない」とのことですが、人それぞれ、年金の金額も違えば、支出の状況、貯蓄の状況なども違うので、老後必要な金額は人によって違います。

定年後の日常の生活費だけでなく、意外に大きな出費となる特別支出や医療費、介護費用なども考え、具体的にどれくらいの金額が必要なのか把握しましょう。

そもそも金融庁の報告書で示された2000万円の数字の根拠は?

ご相談者さんのように、老後の貯蓄はいくらあればよいのか気になる方は少なくないことでしょう。先日、金融庁が出した報告書によると、私たちの老後の生活費は、公的年金だけでは賄えず、2000万円足りないとのことでした。ですから、老後までに2000万円程度は準備しておこうということですが、まずは、2000万円という不足額の数字の根拠から見ていきましょう。

そもそも、この2000万円の不足額の根拠となるデータは、総務省が出している家計調査報告(2017年)です。

このデータによると、現在60歳以上の夫婦(夫60歳以上、妻65歳以上)の高齢無職世帯では、1ヵ月の平均収入は年金を中心に約20万9000円、支出は約26万4000円。ですから、公的年金だけでは、毎月5万5000円の赤字となります。

最近の統計から日本人の4人に1人は95歳まで生きるとのこと。ですから、一般的な年金支給開始年齢である65歳から30年生きると仮定すると、5万5000円×12ヵ月×30年=約2000万円足りなくなるというわけです。

そして、この2000万円という数字は衣食住の基本生活を送る上で必要なお金で、かつ、持ち家を前提としています。

では、ご相談者さんの場合はどうでしょうか?

ご相談者さんの場合、63歳から特別支給の年金が支給されるとのことで恵まれていると思いますが、今回は、65歳以降の生活費について考えてみます。

ご相談者さんは、65歳以降、年額で234万円年金が支給されるとのこと。月額で19.5万円です。奥様の年金の金額がわからないので、はっきりとしたことはいえませんが、住宅ローンも完済していますし、奥様の年金も加われば、上記で算出した老後の基本生活は貯蓄を取り崩すことなく生活できそうですね。

定年後、赤字に転落する大きな要因のひとつが「特別支出」

ただ、気になるのが、現在、毎月26万円程度の収入があるようですが、月々の貯蓄ができていないことです。

毎月の生活費は問題ないかもしれませんが、ご相談者さんが気にされているように、今後、家具・家電の買い替え費用や家の修繕費用など、定年後も何かと「特別支出」が発生します。

特別支出の例としては、「家具・家電の買い替え」「固定資産税」「「住民税」「自動車税」「家のリフォーム代」「レジャー費」「冠婚葬祭費」「子供の結婚資金の援助」「孫への援助費用」などがあります。

税金や冠婚葬祭費など、毎月ではないけれど、1年のどこかで必ず発生するお金もあれば、住まいのリフォーム費など将来的に必ず発生してくるお金もあります。また、子供を持つご家庭なら、お子さんが結婚するときに結婚資金の援助をしたり、孫が誕生した場合には、孫への資金援助をしたりする場合などもあるでしょう。

各家庭により必要な金額は違いますが、一般的な金額の目安としては、家のリフォーム代や修繕費が200万円、子供への結婚資金の援助は子供1人につき100万円、孫への資金援助は孫1人につき50万円程度です。もし、車を買い替えるという場合、1回100万円~150万円程度見積もっておいた方が良いでしょう。

定年後の家計が赤字に転落する大きな要因は、特別支出です。特別支出に要するお金をあいまいにせずに、いつの時点でいくら必要なのかしっかりと「見える化」しておくことが大切です。特別支出だけでも、あっという間に1000万円程度は飛んでいってしまうこともあるので、優先順位をつけて、何に備えていくのかを明確にしておきましょう。

長生き時代は、医療費、介護費用も備えたい

また、最近「人生100年時代」というワードがすっかり定着している通り、今後ますます長生きの傾向にあります。そうなってくると、気になるのが医療費や介護費用です。

もちろん、人によって必要な金額は違ってくると思いますが、一般的にどれくらいの金額が必要なのかを見て見ましょう。

まず、医療費ですが、厚生労働省の統計によると、60歳~89歳までの医療費の自己負担額(保険料を含む)は2014年度実績で、平均115万円とのこと。万が一、がんなどの高額療養費制度を利用した場合についても70歳以上なら自己負担の限度額の上限は、月額5万7600円、仮に1年間入院したとしても自己負担額の合計は約69万円。先の115万円と合わせると約184万円です。

一方、介護にかかる費用ですが、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(2018年)」によると、介護期間は平均4年7ヵ月、介護にかかった費用の平均は月額7万6000円。手すりの設置や車椅子を用意するなどの一時的な費用は69万円となっており、毎月の費用と合わせると、約487万円。ざっくりと500万円は必要になるということです。

医療費、介護費用を合わせると、約700万円は必要ということに。余裕を持たせるとすると、750万円~800万円は準備しておきたいところです。夫婦の場合は、この金額の2倍、つまり1500万円~1600万円が準備しておきたい金額ということになります。

特別支出や医療費、介護費用なども考えると、1000万円の貯蓄では心もとないですね。やはり、2000万円程度の貯蓄があると安心でしょう。

家計改善をしつつ、投資や働き続けるという選択も

とはいえ、現在の貯蓄は1000万円ということですから、まずは家計の見直しをして、毎月貯蓄できる家計に改善していきましょう。

相談者さんの家計の詳細な状況がわからないのであくまでも想像ですが、食費や通信費、保険料などの項目が改善の余地がありそうです。一度、何にお金を使っているのか、全体的に洗い出してみましょう。

また、年金をもらえるようになってからも、アルバイトを長く続くけたり、収入の一部をつみたてNISAなどを活用してお金を増やしたりすることも考えたいですね。

さらに、夫婦のどちらかが亡くなって「おひとりさま」になったときのことも考えておきましょう。1人分の生活費のやりくりの仕方やお葬式代の確保の方法などについて考えておくなど、事前に準備しておくことが大切です。

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