20年度も育鵬社に 歴史・公民教科書採択 横浜市教委

横浜市役所

 横浜市教育委員会は1日、定例会を開き、市立小中学校などの教科書を採択した。中学校で2020年度に使用する教科書は、道徳を除く全教科で主に15年度に採択した教科書を継続。歴史と公民は、歴史観を巡って賛否が分かれる育鵬社を引き続き使う。

 教科書採択は通常、翌年度から4年間、使用するものを決める。ただ中学校は21年度から新学習指導要領が実施される予定で、教科書も20年度に新たに採択する。

 採択を巡っては、学識経験者、校長、保護者ら20人で構成する「市教科書取扱審議会」が7月19日、学習の連続性などを理由に「15年度に採択した教科書と同一のものが望ましい」と答申していた。

 定例会では、鯉渕信也教育長と5人の教育委員が答申通り、全教科とも現行教科書を採択。一方、11年、15年度に続いて採択された育鵬社について、宮内孝久委員は「評価が分かれていることは認識している。新学習指導要領の全面実施に向け、1年間じっくり議論することが望ましい」と意見を述べた。

 定例会では他に、小学校・義務教育学校前期課程で、教科化される英語の教科書に東京書籍を採択するなどした。

◆再び無記名投票、改善点も

 市民団体「横浜教科書採択連絡会」は、市教委傍聴後に報告会を開催した。2020~23年度に使用する小学校の教科書採択では18年の中学校道徳に続き無記名投票が採用され、「不透明だ」との批判が上がった。一方、教科書の取り扱いを調査する審議会の答申が尊重されるなど改善点を歓迎する声もあった。

 委員会では大場茂美委員が「(採択の)透明性を高めることは否定しないが、静謐(せいひつ)な環境できちんと判断しなければとの思いがある」と述べ、無記名投票となった。報告会に参加した女性は「なぜ無記名で採決したのか意味が分からない」と不信感を示した。

 ただ、教科書の会社名を挙げて意見を述べた委員は5人のうち4人となり、18年の道徳教科書採択時の2人から増加。採択結果も審議会の答申にほぼ添った。こうした点に「変化の兆しは感じた」との意見が相次いだ。

 中学校で20年度に使用する教科書は、前回(15年)の採択時に答申では評価が低かったにも関わらず選ばれた育鵬社の歴史・公民の継続使用が決定。ただ、委員からは「異なる価値観を認め合うことも今後の採択の大きな柱にしたい」などの意見があり、報告会では「『全然問題なし』という経過ではなくて良かった」との指摘も出た。

 連絡会の佐藤満喜子さんは「教育委員会が『これではまずいのでは』と思っていることは分かった。ただ、全市一区の採択地区を複数採択地区にすることがなければ、本当の意味での地域の違いを反映できない」と強調。藤沢市から訪れた男性は、前日に行われた同市教委の採択では傍聴者に現場の意見について資料が渡され、教育長は「現場の声を尊重する」と明言したと振り返り、「(各学校現場が実情に合った教科書に対する意見を述べる機会を廃止した)横浜より民主的。横浜は初めて傍聴したがあきれた」と話した。

 一方、鯉渕信也教育長は採択終了後の会見で「教育委員会は合議制の執行機関であり、(教育長を含め)6人で決める。(採択に関する意見について)教育委員会事務局として対応するという意味では無記名が妥当」との見解を示した。

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