ついにアメリカが利下げ、世界的な金融緩和競争の帰結は?

7月30~31日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)において、FRB(米連邦準備制度理事会)は、約10年半ぶりに政策金利の引き下げを決めました。9月以降のFOMCでも、さらなる引き下げが金融市場で予想されています。

FRBだけでなく、ECB(欧州中央銀行)も6月から利下げ方向に転じる姿勢を示し、次回9月理事会ではマイナス金利の深掘りがほぼ確実視され、また2018年まで行っていた国債などの資産買い入れも再開されるでしょう。資産購入に関しては、開始時期と買い入れ規模が金融市場の焦点になっています。

また米欧に加えて、多くの新興国においても中央銀行(中銀)は利下げを始めています。各国の中銀が金融緩和を行っていることを指して、「金融緩和競争」が起きていると言われています。これはどのような意味を持つのか、考えたいと思います。


利下げをめぐる本質的な論点

多くの中銀が利下げを行う背景には、世界経済が減速、そしてインフレ率が総じて低下していることがあります。これは景気が芳しくないということです。

本来、利下げが必要になる経済状況は、企業利益の将来の推移が左右する株式市場には逆風が吹いていることになります。ただ、米国株市場は、7月に入り最高値を更新し続けています。

これは、FRBなどによる利下げによって、成長率やインフレ率が将来回復する、という期待が強いためです。それでは、米国を中心とした株高は、いつまで続くでしょうか。

中銀が金融緩和で対処しても、経済の減速が大きく、また長期にわたり成長率が低くなれば、株式市場は下落に転じることになります。問題は、最近の金融緩和が今後、各国の経済を復調させるのか、という点です。

米中貿易戦争の長期化がもたらすもの

これを考えるポイントは、(1)米中の景気減速圧力の大きさ、(2)中銀の政策判断が妥当であるか(すばやく、そして十分に金融緩和するか)です。

(1)については、米中経済への下押し圧力が強く、現在の緩やかな減速から失速に至る、また成長減速が1、2年に渡り長期化する、などのリスクが懸念されています。米中貿易戦争は先が見えずに、貿易によって稼ぐ製造業などへの打撃によって、米中を中心に世界経済全体の成長率が停滞するというリスクです。

米中貿易戦争は、経済的な要因よりも、米中の覇権国争いという政治的要因が大きく影響しているため、今後も長期化する可能性があります。このため、米国による中国製品への輸入関税適用拡大はまだまだ続く、と筆者は想定しています。

米中の関税引き上げが、世界経済全体を失速させるほどのショックになるかに関して見方は分かれますが、筆者は冷静に考えています。というのも、関税引き上げは、グローバル企業の活動を中心に供給側への影響は避けられないですが、総需要を低下させる影響は限られる、とみているためです。

米欧中銀の緩和姿勢のその先

先に挙げた(2)について、筆者の考えを説明します。2019年に「世界的な金融緩和競争」が始まっていますが、同年のFRBの政策判断は適切であるため、金融緩和政策が経済を再び刺激し始める可能性が高いとみています。つまり、世界的な金融緩和競争は世界経済を復調させる、が筆者の考えです。

金融緩和に加えて、財政政策も成長率を押し上げるとみています。米国では2021年まで歳出を拡大させる方針について、トランプ政権と議会が合意に至り、財政金融政策の双方が成長率を高める方向に作用します。

また、欧州については今後の政治情勢次第ですが、緊縮的な財政政策は和らぐ方向にあります。2020年までに想定される米中貿易停滞による景気下押し圧力のかなりの部分が、米欧などの緩和的な金融財政政策によって相殺される可能性が高い、とみています。

この筆者のシナリオが正しければ、米国を中心に株式市場の上昇基調は、あと2、3年程度は続く可能性があります。ただ、今後半年の時間軸、つまり2019年後半の米国の株式市場に関しては、軟調に展開する可能性が高いとみています。

株式市場はどう動く?

というのも、2019年のS&P500など米国株は年初から約20%上昇していますが、これを牽引したのは、FRBが大胆に金融政策を利下げ方向に転じたことでした。

先述しましたがFRBの金融緩和などによって、米国を中心に世界経済の減速は緩やかにとどまる、と筆者は考えています。一方、金融市場では、FRBによる利下げはかなりの程度織り込まれました。このため、2019年後半は金融緩和期待が、米国の株高を後押しする可能性は低いでしょう。

31日のFOMC後のジェローム・パウエル議長の記者会見において、追加利下げに積極的ではないと受け止められたため、米国株市場は大きく下落しました。今後FRBの金融政策への思惑が揺れ動くため、高値圏で推移している米国の株式市場がやや調整する場面が増えると見ています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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