子育てひと段落の今、TBS堀井美香アナが「朗読会」を立ち上げた理由

TBSアナウンサーの堀井美香さんは、テレビやラジオで活躍するかたわら、プライベートでは入社後1年で結婚し、翌年に長女を出産。3年後には長男も出産し、20代・30代は子育てに奔走してきました。

子育てが一段落した今は、本業のアナウンサーとしての仕事の他、自ら立ち上げた朗読会「A'LOUNGE(エーラウンジ)」のプロデューサーとしても活動しています。

アナウンサーとして出演するのではなく、企画から運営まで徹底して「裏方」を務める堀井さん。社会人としても母としても20年以上のキャリアを得た今だからこそ「新たなことにチャレンジする気持ちになった」というその理由を、ご本人に伺いました。


第二子の高校卒業を目前に「機が熟した」と感じた

――朗読会を主宰することになったきっかけを教えてください。

堀井美香さん(以下、同):実は以前、TBSが主催してアナウンサーが出演する朗読会があったんです。私も新人時代は参加していたのですが、スポンサーが見つからないなどの問題があって、いつの間にか開催しなくなってしまいました。

朗読会のことは、ずっと心に残っていました。そんなとき、上司から「堀井さん、よかったら、もういちど朗読会を立ち上げてみない?」と、声をかけてもらったんです。今から3年くらい前のことでした。

興味もありましたが、当時は役職にもついておらず、家庭の状況からも「そういうことをやる時期ではない」と思っていました。

その気持ちが変わったのは、2018年の年明けでした。第二子である長男が高校卒業を控え、時間と気持ちに余裕が出てきたんです。それと前後して、そろそろ管理職に、という話も持ち上がりました。

「機が熟した、やるなら今だ」と感じました。

――そこからとんとん拍子に話が進んだのでしょうか?

「朗読会をやりたい」という気持ちをTBSのラジオ事業部に伝えて、具体的な話を進めましたが、ネックになったのは「会場をどうするか」ということでした。まだ実績がないので予算がつけられず、無料で貸してくれる会場が必要だったんです。

事業部側は「局内のスペースや、TBSの住宅展示場はどうでしょう」と提案してくれました。でも、せっかくだから、朗読の世界観を楽しんでもらえる空間にしたい。そこで、自分で探すことにしました。

お寺や工場の跡地、プラネタリウムなど、気になるところにはメールで問い合わせたり、自筆の手紙を送ったりしました。お返事をくださったところには、菓子折りを持って、交渉に行って。アナウンサーとしてこれまでなかなか経験しなかった種類の仕事だったのでとても新鮮でした。

ただ、先方も前例がないからか、なかなか受け入れるのが難しかったようでした。

そんなとき、昔の先輩の紹介で丸の内のイベントスペースを紹介してもらって、そこを無償でお借りすることができたんです。これで開催に一歩近づいた、と思いました。

菓子折り、稽古のお礼。自ら負担したものも

――初回はTBSの出水麻衣アナウンサー、宇垣美里アナウンサー(当時)など、4人のアナウンサーが参加されました。「朗読会をやりたい」と相談したときの、アナウンサーの皆さんの反応はいかがでしたか?

参加したアナウンサーで、過去の朗読会に出演したアナウンサーは誰もいませんでした。いきなり「朗読をやる」といわれて戸惑ったと思います。でも、4人とも見事な朗読を披露してくれました。演出家に稽古を付けてもらったのですが、練習にも真剣に参加してくれました。

――TBSのドラマの演出家の方ですか?

いえ、私が個人的にお願いした、舞台の演出家です。知り合ったのは私が30代前半の頃。当時は子育てにも忙しい時期でしたが、自分のキャリアを模索する上でも、アナウンス技術を磨きたいと思って、個人的に依頼していた方です。

朗読会の予算からも少し謝礼をお支払いできたのですが、やはりあまり多くは出せなくて…。私から心付けをお渡しすることもありました。会場を交渉する際の手土産代なども自分で負担していましたね。

でも、ある程度、軌道にのるまではそれもしかたないと思っていたんです。なにせ、実績がないので。それでもいいから、いい朗読会をやりたい。その一心でした。

朗読会の参加費は無料で、ラジオのリスナーを対象に4番組で募集を行いました。定員は30人でしたが、応募はなんと約500人。想定を上回る反響に驚くと同時に、手ごたえを感じました。

ママ友の縁で2回目の会場が決まった

――朗読会の2回目の会場は結婚式場でした。1回目とずいぶん雰囲気が変わりましたね。

プライベートで映画を見ていたときに結婚式場(「セレス高田馬場」)のCMが流れて。「ステキなところだな」と思って、帰宅して早速メールをしました。先方の反応も良かったのですが、会場のレンタル代はどうしてもかかってしまうとのこと。悩みました。

借りたいけれども予算がない。なにかいい手はないだろうかと思いながら、結婚式場のサイトを眺めていたんです。

結婚式場の親会社は冠婚葬祭を幅広く扱っているのですが、そのサイトに見覚えのある「音楽葬」という文字が。仲良しのママ友のお母様の経営する音楽学院が、その音楽葬を担当されていたんです。

ママ友経由でお母様に連絡を取り、親会社の役員の方につないでもらいました。そこで改めて企画の説明をして交渉をして、結果的に無償でお借りできることになったんです。

――ママ友がつないだ縁ですね。

本当にありがたかったです。人のつながりの大切さを感じました。昔はママ友と話すことといえば子どものことばかり。どのドリルがいいとか、お弁当の中身をどうするとか。

でも、最近は集まると子どもの話抜きで盛り上がれるんですよ。老後や人間ドックの話とか(笑)。いつか、本当に子どもたちが巣立ったら、みんなで温泉旅行にでも行きたいです。

約20年、子育て中心の生活で、仕事としては与えられたことをこなすだけで精一杯の日々。

長女の通う公立小学校ではPTA活動に積極的にかかわっていて、学校に「マイスリッパ」を置いておくほど(笑)。とにかく頻繁に学校に通っていました。

長男は保育園の年長からリトルリーグにも入っていたので、その手伝いや応援で土日も忙しかったんです。

でも、子育てが一段落し、余裕ができたことで、もっといろいろなことをやってみたくなりました。

社内の人やママ友だけでなく、もっといろいろな人と話してつながっていこう。そう思って行動していたら、「エーラウンジの次の会場にどうですか」なんてお誘いが舞い込んだり。蒔いた種がここへ来て芽を出してきたような感覚です。

朗読に耳を澄ませて、非日常に浸ってもらいたい

――次回、(9月29日)の会場はGINZA SIXのラウンジです。写真を見る限り、かなり豪華な会場ですが、こちらも堀井さんが探されたのでしょうか?

エーラウンジの活動を評価してくれたJ:COMさんがスポンサーになってくれて、進んだ企画なんです。これまでは神話やおとぎ話、往年の名作を朗読していましたが、今回は会場の華やかな雰囲気に合わせて、小説『コーヒーが冷めないうちに』『この嘘がばれないうちに』から3つのエピソードをセレクトしました。

銀座で朗読会をするのは夢でもあったので、こんなに早く叶って驚いています。ゆったりとした時間を過ごしてもらいたくて、ワインもサービスする予定です。

働いている方もそうでない方も、皆さんお忙しいですよね。ちょっと座る時間があっても、目はスマホで情報を追っていることも多いでしょう。それに比べて、耳ってあまり使う機会がないと思うんです。朗読会にいる2時間の間だけでも、耳を澄ませて非日常に浸ってもらえれば嬉しいです。

――堀井さんはご出演されないんでしょうか。

これまで一度も自分が出たことはないんですよ。「なんで出ないんですか?」と聞かれますが、自分で企画して自分で朗読するなんて、なんだかジャイアンみたいだなって(笑)。朗読会ではお客さんの誘導をするなど、裏方に徹しています。

朗読って地味ですよね。日常的に接する機会もありませんし。でも、実は小さいころはみんなやっていたと思うんです。声に出して絵本を読んだり、宿題で教科書を音読したり。

朗読を聴くだけでなく、自分でもやってみたいと思ってくれたら。いつか、お客さんも参加できるような会を企画するのが夢です。

――仕事に朗読会にと頑張る堀井さんについて、お子さんは何か言っていますか?

上の子は(大学4年生の娘)は「友だちに聴きに行くね」と言ってくれますが、下の子は男の子だから「ふーん」という感じですね(笑)。2人とも、テレビやラジオに出ている人というより「普通のお母さん」として扱ってくれるので、むしろ自由にやれているような気がします。

仕事で帰宅が遅い夫の分も、一人で子育てに奔走した時期が長く続きました。そんなとき、当時の女性上司に言われた「最後に帳尻を合わせればいい」という言葉を最近よく思い出しています。

女性のキャリアは時期や状況に応じて変化するもの。今はあのころの分まで働いている。そんな気持ちです。

堀井美香(ほりい みか)
1972年生まれ、秋田県出身。1995年にTBSテレビにアナウンサーとして入社。1996年結婚、1997年に長女、2000年に長男を出産。これまでに担当した主なテレビ番組は『王様のブランチ』『とんねるずのカバチ』など。現在はテレビ『ビビット』『坂上&指原のつぶれない店』などのナレーションを担当。ラジオでは『久米宏 ラジオなんですけど』『ジェーン・スー 生活は踊る(日替わりパートナー)』に出演。2018年から朗読会「A'LOUNGE(エーラウンジ)」のプロデューサーとしても活動中。

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