【U-12W杯】資金不足で欠場危機だったフィジー代表、日本人の尽力で晴れ舞台に!

フィジー野球協会の持田貴雄会長、大嶋賢人コーチ、白川将寛前コーチ(右から)【写真:工藤慶大】

日本人の協会会長がクラウドファンディングを立ち上げ、150万円を集める

 台湾・台南市で行われている「第5回 WBSC U-12ワールドカップ」。侍ジャパンU-12代表は7月29日、オープニングラウンド第4戦でフィジーと対戦し、30-0で圧勝した。数字の上では侍ジャパンの大勝だが、招待枠で初出場したフィジーは2安打を放ったほか、3回に1死満塁のチャンスを迎えるなど奮闘した。

 フィジーはオーストラリアの隣に位置する南太平洋の小さな島国。7人制ラグビーでは2016年リオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得した強豪国だが、野球はほとんどの人が知らないマイナースポーツ。そんなフィジー代表が「U-12ワールドカップ」の大舞台に立つまでには、多くの苦労があった。

 今回のフィジー代表には3人の日本人が関わっている。フィジー野球・ソフトボール協会の持田貴雄会長、大嶋賢人コーチ、白川将寛・前コーチだ。持田氏は「フィジーはご存知の通りのラグビー大国。男の子のほとんどがラグビーをしているはずです。当然今年のラグビー・ワールドカップでは上位を狙っていますし、来年の東京オリンピックの7人制ではディフェンディングチャンピオンとして金メダルを目指しています。野球のようなスポーツが潤沢な予算を得られることはまずないんです」と話す。

 もともとはオセアニア予選を勝ち上がった1チームだけが今大会の出場権を手にするはずだった。ところが、予選参加を表明していた国が次々と辞退。最終的に開催国のオーストラリアとフィジーだけになったため、大会が中止になった。結果、世界ランク上位のオーストラリアが出場権を獲得するだけではなく、救済措置としてフィジーに招待枠による出場権が舞い込んだ。

「協会が発足して約20年経ちますが、かつてはお金なんて全くつかなかった。でも、今回はワールドカップということで100万円くらいの予算をつけてくださった。それでも当然足りない。どうしようか悩んでいた時に国内企業を回ると、『野球って何だっけ?』『僕たちは(ラグビー)ワールドカップで忙しいんだよね』という感じなんですよね」

 資金をどう捻出するか。持田氏は“日本人脈”に望みを託した。「20年間、日本の方々は常にフィジーの野球のそばにいてくれたんです。これまでに関わってくださった方にお声掛けをして、クラウドファンディングを立ち上げたところ、約150万円の資金が集まった。そのおかげで、スタッフ4人と選手16人を連れてくることができました」と、感謝した。そして「今回無理をしてこの大会に参加したのはフィジーでも野球やっていることを世界の人に知ってほしいから。今回、特に台湾の人に『(野球を)やっているんだね。知らなかったよ』という反応をいただきました。来た甲斐がありました」と笑顔で続けた。

次なる目標「フィジーからプロ野球選手を」

 持田氏は2007年にフィジー日本大使館に赴任。08年から11年までフィジー代表監督を務め、17年に協会会長に就任した。苦労しながら野球不毛の地で、普及に尽力してきた。

 そんな時、白川前コーチが青年海外協力隊として14年にフィジーへ。持田会長と小学校を回り、一から野球を教えた。持田氏は当時をこう振り返る。「最初は『何それ?』という感じ。その中で関心を持った子が少しずつ集まってきて、大嶋コーチの指導を受けるようになった」。白川氏は大嶋コーチにバトンを渡して2016年に帰国。現在は地元で公務員として働いているが、今回は教え子たちの晴れ舞台を見ようと応援に駆け付けた。

「どんなタイプの選手でもいい。成功例を出したい」と大嶋氏は力を込める。中学ではシニアの強豪でプレーし、高校、大学と続け、世界に野球を広めたいとの思いから、青年海外協力隊に入った。夢はフィジーからプロ野球選手を輩出すること。「フィジーで野球を始めた子供が、米国でも日本でも豪州でも、どこかのプロリーグでプレーしてくれたら。『自分もああなりたい』という目標になる」と熱っぽく語った。

 持田氏は今後の目標を「フィジーで野球をもっと知っていただくこと」と言い切った。「裾野を広げた上で積み上げていきたい。ラグビー同様に、野球を頑張った子もその後のキャリアで成功するという形を作っていくのが協会の使命だと思っています。日本人としてのネットワークも使って、辞めてくれといわれない限りは(会長職を)続けていきたい」と今後もフィジー野球の発展のために尽くす覚悟だ。

 5戦全敗。オープニングラウンドで敗退したフィジー代表だが、最後まで笑顔でプレーする選手の姿は、観客の目に焼きついたはず。3人の日本人が、野球で世界を繋いでいた。(工藤慶大 / Keita Kudo)

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