「お金かかるから消火せずともよし」が招いたシベリア大火災

By 太田清

 8月1日、燃えるロシア・クラスノヤルスク地方の森林(タス=共同)

 ロシアのシベリアで7月発生した森林火災が拡大、これまでにベルギーの国土面積に相当する300万ヘクタール近くに延焼するなど記録的な大火災となっているが、同国の自然保護団体などは消火作業に要する費用を考慮して、一部地域で地元当局に森林火災の消火を義務づけないことを決めた政令施行が事態を悪化させたとして、政府を批判している。 

 火災は、サハ共和国、クラスノヤルスク地方、イルクーツク州などシベリアの広大な範囲で拡大。米航空宇宙局(NASA)などによると、火災の煙はロシアの周辺都市のほか、モンゴル、カナダのバンクーバー、米国のアラスカに到達するなど世界的な規模で広がっている。トランプ米大統領は7月31日、ロシアのプーチン大統領との電話会談で火災への支援を申し出たが、プーチン氏は感謝の意を示し、両国関係の全面的な改善に寄与するとの認識を示した。 

 当局は当初、火災は乾いた森林での落雷が原因との見方を示していたが、メドベージェフ首相は内務省や検察庁に対し放火の可能性を捜査するよう指示。ロシアのニュースサイト「ニュースルー」は政府の無策の責任転嫁のための「犯人捜し」が始まったと報じた。  

 8月1日、ロシア・クラスノヤルスク地方で森林火災の消火に当たる作業員(タス=共同)

 火災拡大に対し、プーチン氏は軍の派遣を命令。ロシア軍や非常事態省の航空機が空中から放水するなど、消火作業に当たっているが、火の勢いは衰えておらず「自然の降雨を待つしかない」(英字紙モスクワ・タイムズ)状況だ。煙による住民の健康被害のほか、火災による二酸化炭素発生や将来の森林の温室効果ガス吸収能力の低下、大量のすすが北極圏の氷に付着することなどによる地球温暖化促進も懸念されている。 

 シベリアでは例年、多くの森林火災が発生し地元当局が頭を痛めているが、ニュースルーによると、政府は2014年、消火のための予算不足を理由として、火災が人家などに危害を及ぼさず、消火にかかる費用が森林消失で予想される損失を上回る場合は、地元自治体は火災を監視するだけで、消火しなくてもよいと定めた政令を制定。15年に施行された。 

 対象となる「管理地域」は各自治体が任意に定めるが、環境保護団体グリーンピース・ロシアによると、消火費用節約を優先して広大な森林が管理地域に指定された結果、2018年に起きた森林火災の9割が同地域で発生したものの、政令により消火は行われず燃えるに任せる状況が続いていた。 (共同通信=太田清)

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