明石家さんまが引き笑いなら、ジョー・ストラマーと遠藤ミチロウは引きシャウト 1985年 5月25日 ザ・スターリンのライブアルバム「FOR NEVER」がリリースされた日

息を吸いながら「ヒー」という甲高い笑い方を「引き笑い」というらしい。呼吸のタイミングを間違えると時々そんな笑い声が出てしまうことがあり、思いのほか高い音が出て自分でもびっくりすることがある。

この「引き笑い」の代表といえば明石家さんま。さんまが出演する番組では「引き笑い」が出るとスタジオ内は盛り上がり、それが出れば出るほどテレビを見ているこっち側も楽しくなるのか盛り上がってくる。「引き笑い」には周りにいる人の注目を集め、気持ちを盛り上げる効果があるのだろうか。さんまの「引き笑い」がテレビから聞こえてくると僕の脳裏には二人のミュージシャンが浮かんでくる。

一人はクラッシュのジョー・ストラマー。「ロンドン・コーリング」の間奏でギターのハウリングとともに聞こえてくる「オーオッオッオッオーッ!」と繰り返されるジョー・ストラマーの叫び声が「引き笑い」と重なる。ここではこれを「引きシャウト」と名付けよう。

「引きシャウト」と「引き笑い」が同じ発声方法なのかは定かではないが、息を吸いながら叫ぶ「引きシャウト」は高音で歯切れがよくて、強烈なインパクトを残す。そして曲に緊張感を与えるこの叫び声は「ロンドン・コーリング」には不可欠だ。この叫び声があるからこそ、はるか遠くにいる、英語がわからない やっすぅ少年にもしっかり届いたのだろう。

もう一人のミュージシャンがザ・スターリンの遠藤ミチロウだ。ミチロウの「引きシャウト」を堪能できるのは1985年5月にリリースされたスターリン解散ライブアルバム『FOR NEVER』。ミチロウはジョー・ストラマーのような歯切れがいい「引きシャウト」ではなく、体の奥底から絞り出す叫び、いや悲鳴だ。聴いている人をすべて飲み込んでしまう、まるでブラックホールのような吸引力がある。もしかしたら解散というかたちでスターリン自身をも飲み込んでしまったのかもしれない。

遠藤ミチロウの「引きシャウト」に僕が完全に飲み込まれてしまったのが、1997年に武道館で開催された新宿 LOFT の20周年記念イベント『ROCK OF AGES 1997』だった。アコギ1本でステージに登場した遠藤ミチロウがいきなり始めた「引きシャウト」には一瞬、心臓が止まりそうになった。

最初はそれが何の音なのか分からず、何かトラブルが起きたのかと、ミチロウをよく見ると口の中にマイクを突っ込で叫んでいるではないか。曲はボブ・ディランの「天国の扉」。ミチロウが日本語の歌詞をつけたものだった。

 おまえのあそこはまるで広島のように  真っ黒く原爆のように晴れ渡る  おれは大好きさ 広島ファック  皆殺しの歌を歌う 広島ファック  まるでおふくろの○○○○のように  つややかでべとべとでぐちょぐちょで  どろどろでベトベトで  すべてを喰い尽くした神様のようだ

武道館が丸ごと吹っ飛びそうな凄まじい破壊力、いやすべてを引きずり込む吸引力だ。まるで爆心地で聞こえるだろう爆発音や破壊音、そして人々の叫び声を「引きシャウト」で表現しているかのようだった。その声はもはや人間が発するものとは思えない。喜びも悲しみも怒りも畏れも生も死もすべてを飲み込んだ言葉のように感じた。「天国の扉」のオリジナルの歌詞は知らないけれど、きっとそんな歌なんだろうな。ボブ・ディランは「おふくろの○○○○」なんて歌わないだろうけど。

カタリベ: やっすぅ

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