従軍医の絵画と短歌 戦争の悲惨さ感じて 小田原

「淡煙」のもとになった亡き戦友の遺体を焼く場面を描いた作品と小野鉄二郎さん =ギャラリーNEW新九郎

 太平洋戦争の中でも悲惨な戦闘といわれたニューギニア戦線やインパール作戦に参加した軍医のはがき絵と短歌展「淡煙(たんえん)」が、神奈川県小田原市中里のギャラリーNEW新九郎(ダイナシティウエスト4階)で開かれている。おだわらミュージアムプロジェクトの主催。

 軍医は長野県大町市出身の小野彰さん(1910~77年)。医学を学ぶ一方で画才もあり、戦地で軍事郵便のはがきに木炭などで現地の風物を描き、短歌を詠んだ。戦後は同市で開業医をしながらそれらをまとめ、「淡煙」を自費出版した。タイトルは「荒れはてし/椰子(やし)の林に/屍(かばね)焼く/煙はあは(淡)く/北に流るる」などのニューギニアで詠んだ短歌にちなんでいる。

 原画などは所在不明になっていたが昨年春、次男の鉄二郎さん(69)=東京都練馬区=が大町市の実家で発見。同年夏に同市で展覧会を開いたところ、同プロジェクトのメンバーが見て、小田原での開催計画を進めてきた。

 会場には原画70点、短歌約千首などを展示。絵は木炭を水で溶かし筆で描いたもので、軍医だけにマーキュロクロム(通称・赤チン)で彩色したものもある。絵画のほとんどが南洋地方や旧ビルマ(現ミャンマー)の市街、農村、山林の風景で、短歌は苦しい行軍の一方、現地の豊かな自然などを詠んだものもある。

 同プロジェクトは「ニューギニアの頃は戦争を記録しようという意識で、インパールの頃は自分の精神の均衡を保とうと制作しているようだ」と印象を語る。

 入場無料。12日まで。3日午後2時からは同ギャラリーで鉄二郎さんの講演会が開かれる。鉄二郎さんは「人の命を救う医師である父は生前、命を取り合う戦争は悪だと言っていた。展覧会で戦争の悲惨さを感じ取ってほしい」と話している。

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