大阪発「ヘルパーのいる引っ越し屋さん」が重宝される理由

大阪市住之江区のセイコー運輸という企業が始めた、ヘルパー資格を持つスタッフがサポートする引っ越しサービス「シルバー住むーぶ」が、全国の中小運送事業者に広がっています。

サービスを立ち上げブランド化した、同社代表取締役の宮髙豪さんに取材すると、柔軟に高齢社会におけるニーズをつかんだこと、そして中小企業ならではの強みがうかがわれました。


祖母のケガをきっかけに資格取得

宮髙さんは祖母が転倒で大腿骨を骨折したことから、どのように治療や介護を続けるか考えるために、2004年に現在の介護職員初任者研修に相当する「ホームヘルパー2級」の資格を取得しました。

また、同時に運送業の経営者として、他社との差別化を図っていたといいます。
「2000年あたりから個人向け引っ越しサービスを始めたのですが、市場は大手の寡占状況。お客さんのターゲティングについて模索していました。高齢化についてニュースで取り上げられているのを見るうちに、高齢者向けの引っ越しサービスができないだろうかと思うようになりました」

そんな考えと取得したヘルパーの資格が結びつき、ヘルパーの資格を持ったスタッフが、高齢者施設への入居のお手伝いをする引っ越しサービス「シルバー住むーぶ」が2005年にスタートしました。

営業のため居宅介護支援事業所(ケアプランセンター)や地域包括支援センターなどに、一軒一軒足を運んでいた宮髙さん。しかし当初は「家族の方が対応されるので、必要ありません」と言われ、なかなか契約に至らなかったそうです。

サービスを開始した2005年当時でも独居の高齢者は22%(高齢社会白書より)、大阪市内はさらに多く40%以上(大阪市統計より)。ひとり暮らしで近くに家族がいない高齢者は、ケアマネージャーに頼ることになります。しかし、介護保険で受けられる生活援助サービスに、引っ越しの荷造りは入っていません。

「何度も顔を出すうちに、ケアマネージャーさんが本音で相談をしてくれるようになりました。本来の業務である介護プラン作成の他に、引っ越し業者を探すといった雑務に追われるという実態があったんです」

増加する独居高齢者はどう引っ越す?

ケアマネージャーからの信頼を得た結果、2005年の月1回から、2018年は月10件程度まで受注は増え、年間で100件弱。サービス開始から1,500件の依頼があり、3割がリピーター。ケアマネージャーからの依頼が多いそうです。

「何年もケアマネージャーと関係を持ち続けられたのは、転勤のない中小企業だったから。人間関係を作るには良い環境でした。また、アルバイト任せの引っ越しではなく、丁寧なヒアリングときめ細やかな対応を行っていたため、ご高齢者本人、ご家族やケアマネージャーからの信頼を得られたのでしょう」

セイコー運輸のシルバー住むーぶでは、例えば家族と住んでいた家から施設に生活に必要なものだけを持って引っ越しする場合は3~5万円、賃貸物件から退去日までに引っ越し、部屋の清掃、不用品の引き取り・廃棄を含む場合は30万円前後で行っています(※地域によって異なる)。

シルバー住むーぶは、独自の創意工夫を行った事業として、2007に年全日本トラック協会の助成事業に認定され、「1社に必ず最低1人以上、介護職員初任者研修修了者、介護福祉士、社会福祉士、看護師(准看護士)の有資格者がいる」などの条件のもとサービスをブランド化しました。

有資格のスタッフが手助けする意味

そして、2011年から東京や神奈川など地方を越えて中小企業が賛同し加盟し、2018年には24都府県26社に広がりました。各地に散らばることで事業所同士が商圏を侵さず、情報交換などで協力し合うことができるそうです。

ヘルパーなどの資格を加盟の条件にした理由を、宮髙さんはつぎのように語ります。
「資格があれば、例えば右脳梗塞を患われた方が左半身マヒという後遺症が出るという知識があるので、ベッドの移動をする時、どの向きに置かないといけないのかが理解できる。スタッフ全員が有資格者でなくても、資格を持っているスタッフが伝えることもできます。また、資格があることで、ケアマネージャーさんもご家族も安心して任せてくださいます」

加盟する事業所が集まり、研修を通してサービスの質を一定に維持したり、情報交換でサービスの向上に努めたりなどの活動を行ってきましたが、2019年6月1日に「一般社団法人住むーぶ全国協議会」を設立しました。

「地域のひとり暮らしの方の生活の困りごとって、行政の人たちも把握してないこともあるんですよ。でも、いち企業として行政に何か提案しても、利益誘導につながると思われてしまいます。一般社団法人という非営利組織を作ることで、行政に私たちの『高齢者の住環境の改善』という理念を理解していただき、地域のことを一緒に考えるプラットホームを作りたいんです」

これから一般社団法人として、高齢者の住まいに関する困りごとについての情報の収集や調査分析、行政に向けての情報発信などに取り組んでいくとのことです。

北は東北、南は九州まで加盟する事業者が広がった同社団法人ですが、宮髙さんは現状に満足することなく、2025年には50社の加盟を目標としています。受注数は今年、全国で1,038件の受注でしたが、5年後には1万件を目指すそうです。

引っ越しにほかに「片付けサービス」も

さらに、新たに全国に展開しようとしている事業があります。それは「住むーぶエバー」という高齢者の住居の片付けサービスです。
「現在、政府は施設の入居よりも、在宅での介護を推奨しています。だから、高齢の方が在宅で長く健康に生活できるお手伝いができないかと考えました」

介護が必要になる要因は脳卒中、認知症、高齢による衰弱、認知症についで、骨折・転倒が続きます(高齢社会白書)。高齢者の家の片付けは介護の領域ですが、ヘルパーが生活援助のために入れる時間が限られているため、ヘルパーが来ていても散らかっている家が少なくないと宮髙さんはいいます。

片付け前(左)と片付け後(右)

そんな環境では転倒・骨折につながりかねないため、自宅の整理整頓による予防のためにサービスを開始したとのこと。引っ越しと片付けではサービス内容は違いますが、高齢者の住環境の整備という点では共通しているようです。

現在セイコー運輸では「整理収納アドバイザー」の資格を持つ社員が、片付け方についてのセミナーを開催し、散らかりにくい収納のコツなどを伝えます。高齢者が自分で片付けをする際に依頼を受けて、自宅を直接見てのカウンセリングや片づけのプラン設定、そして重いものを運んだり、不用品を引き取ったりなどを、1時間5,000円から対応しています。お客さんは比較的年齢が若めの高齢者がほとんどで、半年に1回など定期的に依頼するそうです。

今後は全国の「住むーぶ」加盟事業者に資格取得を勧めるともに、実践を通して独自の検定試験を作って、2025年には一般社団法人の収益事業を目指しているとのこと。
「中小企業が地域を支えている。地域に関わることは中小企業が取り組んでいかないといけない」と自負する宮髙さん。事業の拡大や業界の発展に努めつつ、良い評判も悪い評判も立ちやすい、地域というフィールドで、日々サービスの向上を図っていくそうです。

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