JR、東急、東京メトロなどで通勤電車の車体が「銀色」ばかりになった、深い理由

近年は、「銀色の電車(車体側面で金属表面が露出した電車)」を見る機会が増えました。とくに首都圏では、「銀色の電車」が通勤電車の大部分を占めています。

なぜ「銀色の電車」は、これほどまでに増えたのでしょうか。それには、おもに3つの理由があります。

この記事では、その3つの理由を説明しますが、その前に、電車の基本構造をざっくりと説明しておきましょう。


腐食しにくくして軽くできる

電車は、台車の上に車体を載せた構造になっています。台車はレールの上を走る走行装置、車体は人が乗る部分です。車体には、全体を支える箱状の基礎部分があり、構体(こうたい)と呼ばれます。構体には、かつて木材が使われたことがありましたが、現在はすべての部品に金属材料が使われています。

構体に使われている金属材料は、おもに3種類あります。普通鋼(一般的な鋼)と、ステンレス鋼、そしてアルミニウム合金です。

普通鋼は、加工しやすいので、電車の構体材料として長らく使われてきた実績があります。そのいっぽうで、大きな弱点もあります。それは、腐食による劣化、そしてそれにともなう強度低下が起きやすいということです。このため、普通鋼製の構体では、表面を塗装して腐食を防ぐだけでなく、腐食による劣化を想定して厚めの板材を使います。

一方、ステンレス鋼とアルミニウム合金は、いずれも普通鋼よりも腐食しにくいという特長があるので、これらの材料でできた構体は、基本的に塗装する必要はありません。また、腐食を考慮して板材を厚くしなくても済むので、必要な強度を保ちながら、構体全体の重量を軽くできるというメリットがあります。

JR常磐線のグリーン車。ステンレス鋼製構体を使用
つくばエクスプレスの電車。アルミニウム合金製構体を使用

つまり、先述した「銀色の電車」とは、ステンレス鋼製またはアルミニウム合金製の構体を採用して、構体の塗装を省略した電車なのです。

ただし、構体がアルミニウム合金製の電車がすべて「銀色の電車」とは限りません。近年製造された新幹線電車や一部の特急電車のように、アルミニウム合金製構体を塗装した電車も存在します。

「銀色の電車」の多くには、車体側面の一部に色がついています。これは、金属表面に、着色したフィルムを貼っているからです。このフィルムには、電車の見栄えを良くするだけでなく、鉄道利用者が路線や列車の種類を、色や模様で識別できるようにする役割があります。最近は、フィルムを広告に利用した例も増えています。

労働者や周辺住民にもメリット

さあ、ここからが本題です。近年「銀色の電車」が増えた理由には、おもに次の3つがあります。

(1)塗装費用が削減できる
(2)塗装設備が不要になる
(3)塗装作業者が不要になる

(1)の「塗装費用が削減できる」は、多くの方がお気づきになったことでしょう。塗装は時間とともに劣化するので、構体の強度を長く保つには、鉄道車両メーカーで製造するときに塗装するだけでなく、鉄道事業者の手に渡ってからも定期的に塗装しなければなりません。しかも、大都市圏では、1つの鉄道事業者が保有する電車の数が数百両に及ぶことが多く、その分だけ塗装費用が膨らみます。「銀色の電車」の導入で、その費用が削減できれば、鉄道事業者にとっては電車の維持費の節約につながります。

(2)の「塗装設備が不要になる」は、人口密集地に車庫を設ける上で重要です。塗装で使う有機溶剤は人体に有害なので、それが混じった水が排出されたり、その蒸気が空気中に拡散したりすると「公害」になります。とくに住宅が密集した地域にある車庫では、それが問題になりやすいので、塗装設備をなくすことができれば、鉄道事業者だけでなく、車庫周辺の住民にとってもメリットがあります。

(3)の「塗装作業員が不要になる」は、労働者の負担を減らす上で重要です。塗装作業員は、有機溶剤を扱うための資格が必要ですし、有機溶剤が身体に与える影響を検査する健康診断を定期的に受ける必要があります。このため、塗装設備という有機溶剤を扱う職場がなくなることは、鉄道を支える労働者にとってもメリットがあります。

つまり、「銀色の電車」を導入すれば、たんに電車の維持費を削減できるだけでなく、車庫周辺の住民や労働者の環境を改善できるのです。これが、「銀色の電車」が増えた大きな理由です。

2018年に引退した東京メトロ6000系。アルミニウム合金製構体を採用した初期の電車

「銀色の電車」を積極的に導入した鉄道事業者の1つに、東京メトロがあります。同社は、保有する電車の数が多いだけでなく、住宅密集地に車庫を設ける必要があったので、旧営団時代の1960年代から「銀色の電車」を導入した歴史があり、今では保有するすべての電車の構体がアルミニウム合金製になりました。なお、銀座線や丸ノ内線の新型電車では、構体全体を黄色や赤色のフィルムでラッピングして、金属表面を隠しています。

ステンレス鋼とアルミニウム合金は、それぞれ材料費や加工性などで一長一短があるので、どちらが構体に向いているかは一概に言えません。ただ、前述の東京メトロがアルミニウム合金を選んだのは、重さ(密度)が普通鋼の1/3程度と軽く、リサイクルがしやすいという理由があるようです。

車体側面にある凸凹の正体は?

最後にステンレス鋼製構体の電車、いわゆるステンレスカーについて、トリビアを1つご紹介しましょう。

日本で初期に製造されたステンレスカーには、車体側面に湯たんぽのような凹凸がある板がつけられています。この板がある電車のうち、現存するものの代表例には、1975年以降に製造された東急電鉄のステンレスカー(8500系)があります。

東急田園都市線8500系の側面

さて、この板は何のためについているかご存知ですか?

この板は「コルゲート」と呼ばれるもので、溶接の跡や、板材に生じるシワを目立たなくする、つまりカムフラージュするためについています。新しいステンレスカーにこれがないのは、溶接技術や組立工法が発達したことで、目立つ跡やシワが生じにくくなったからです。

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