狙って、予測していたWAKO’Sのセーフティカー直前ピットストップ。悔しいライバル勢と今後の光明《第5戦富士GT500決勝あと読み》

 スーパーGT第5戦富士500マイル、GT500の戦いは事前よりサバイバル戦が予想されていたが、その予想を上回るようなトラブル、アクシデントの多いレース展開となった。優勝もセーフティカー導入のわずかな合間でピットロードに飛び込んだWAKO’S 4CR LC500が前戦の第4戦に続く連勝を挙げ、多くの予想を覆す結果となった。

 WAKO’S 4CR LC500のメカニック、エンジニア、そして脇阪寿一監督たちは見抜いていた。ZENT CERUMO LC500のクラッシュで74周目にセーフティカー(SC)が導入された際、SC導入の指示と実際にSCボードが提示されるまで、少しのラグがあることに気づいていたのだ。実際のSCはSCボードが提示された時から有効になる。

 そして107周目、リアライズコーポレーション ADVAN GT-Rがトラブルからピットロード入口付近にマシンを止め、マシンフロント部から炎が上がり始め、このレース2度目のSCが指示された瞬間、WAKO’S 4CR LC500は動いた。

「タイミングがよくて、ちょうど第3セクターに入るときにセーフティカーとなって、ピットではタイヤ交換をする準備はできていました。あとはピットレーンの信号が青なら入れるので、入る判断は(ステアリングを握っていた)ヤマケン(山下健太)に任せていました」と話すのはWAKO’Sの阿部和也エンジニア。

 実際にSCボードが提示されるわずか数秒前に2番手を走行していたWAKO’Sの山下はグリーンシグナルのピットレーンに入り、ギリギリセーフ。一時審議の状態となったがSCボードの提示前にピットインできており、問題ないことが判明して実質、この時点でWAKO’Sの勝利は決まった。

 奇しくもWAKO’Sの後ろ、3番手を走行していたRAYBRIG NSX-GTもピットインを予定していたが、RAYBRIGの時にはピットレーンはクローズとなっていて入れなかった。また、36号車au TOM’S LC500も同じタイミングでピットインする予定だったが、セクター3でGT300と接触してしまい叶わなかった。

「(トップの)23号車(MOTUL AUTECH GT-R)がなぜピットインしたのかわかりませんが、ウチはたまたま入れたわけでなくて、狙っていました。タナボタと言えばそうかもしれないですけど、そのポジションまで順位を上げていたのはドライバーのおかげです」と阿部エンジニア。もちろん、ラッキーもあるが、そのチャンスをきちんと最大限に活用できる強さが今のチームルマンにはあるようだ。

 WAKO’Sは第4戦タイで優勝してランキングトップとして今回の第5戦富士でも優勝。しかも、富士は500マイルレースのため、ボーナスポイントが付くため、ランキング2位に17ポイント差をつける大きなアドバンテージを得ることになった。しかも、タイトルを争っていた同じレクサス陣営のZENTがクラッシュ、au TOM’S LC500がGT300との接触で右フロントタイヤまわりを大きく破損してリタイア、DENSO KOBELCO SARD LC500もWedsSport ADVAN LC500との接触で右フロントのカウルがタイヤの接触してしまい、チームによると修復に時間が掛かってしまうとのことでガレージにマシンを入れることとなった。

 ZENTの立川はチームによれば、クラッシュの後、メディカルで検査を受けて体に大きな怪我はなかったことが確認されたという。ただ、表彰台以上のチャンスが見えた段階でのアクシデントによるクラッシュのショックからか、チャンピオンシップに向けて重要な一戦でのリタイアの失望からか、ピットに戻った立川はレース途中でサーキットを離れ、レース後もどのメディアにもコメントを残すことはなかった。

 レクサス+ブリヂストン勢としては37号車KeePer TOM’S LC500が4位に入ったが「路面温度が下がりだしたのにマッチしたのか、3スティント目からペースも良くなってきて僕の4スティント目もそこそこいいタイムでいけましたけど、最初の2スティントが持ってきたタイヤの問題もありますけど、課題ですね」と平川亮が話すように、厳しい展開となった。

2度目のセーフティカー明けにそのままピットに入ったニッサン勢の3台同時ピットイン

■WAKO’S以外のレクサス陣営だけでなく、次々と不運なアクシデントに巻き込まれていくライバル陣たち

「セーフティカーでチームルマンにすごいラッキーがあったので、そこは悔しいですね。チャンピオン争いは厳しくなりましたけど、レースは本当にわからないのでチャンスはあると思っていますので、諦めずに少しでも差を詰めたいと思います」と平川は前を向いたが、レクサス陣営内でもWAKO’Sが大きく抜け出した形となった。

 他メーカーでは、予選2番手を獲得していたCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが不運なアクシデントに見舞われた。平手晃平が話す。

「残念といいますか、悔しいですね。フロントのブレーキがずっと噛んでいるような状態で。ブレーキバランスがほぼ100パーセント前に行っているような状態で、間違いかなと思って走り出したんですけどフロントのブレーキが噛んでいるようなフィーリングでした」と平手。

「1周回ってくる間にポンピングとか、やれることはやってみたんですけどストレートも全開で走っても20km/hくらい遅い状態でブレーキ温度も異常な高温になっていたので危険だったのでピットインしました。悔しい部分はありますけど、速さといいますか、パフォーマンス的にはいいところにいたと思いますので次のオートポリスで、この悔しさを返したいと思います」と話すように、次のオートポリスはGT-Rと相性のよいサーキットで、ウエイトハンデが軽いCRAFTSPORTSは本命の1台になるだろう。

 ホンダ陣営ではRAYBRIGは実質、優勝に等しい10番グリッドからの2位獲得となったが、序盤戦に見せ場を作ったのはModulo Epson NSX-GTの牧野任祐だった。

「見せ場は作れたかなと思います。自分自身、スーパーGTでレースっぽいレースがこれまでできていなかったので、そういった意味ではよかったですし、自分のスティントには満足しています。最後だけ、路面温度が下がった時に、それまでと同じタイヤを履いていたんですけどコンディションに合っていなかったのかなというのがありますけど、予選Q1も通れましたし、結構、ポジティブな週末でした」と牧野。

「スタートから4番手の順位をキープして後ろを押さえることができたし、次のスティントも2~3台パスできたので、本当にポジティブな週末だったと思います。最後のスティントでは前のスティントでナレイン(カーティケヤン)さんがGT300と接触して(ドライブスルーペナルティを牧野が消化)クルマにダメージがあった状態で、リヤフェンダーがタイヤと当たっていた状態でずっと煙が出ていたので、大事を取って、順位も変わらなかったのでピットインしました。次も今回のポジティブな感触を今後も続けられればいいかなと思います」と話すように、今後に可能性を見せるレース内容となった。

 予想以上のサバイバル戦となった第5戦富士500マイルの決勝だが、WAKO’Sの連勝に大きなショックを受けているチームが多く、今後のチャンピオンを考えると諦めムードが漂う形となったことは間違いない。残り3戦でストップ・ザ・WAKO’SというGT500クラスの戦いとなるが、そのWAKO’Sに挑む急先鋒はどのチームになるのか。次のオートポリスはその対抗馬を探す戦いとなる。

セーフティカー明けにニッサン勢などはすぐにピットインしたが、RAYBRIG NSX-GTは混乱を避けて1周遅れてピットイン。この戦略が奏功した
107周目、このレース2度目のセーフティカーがコールされた

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