顔を隠した少女がYouTubeで運命を切り開く! インド映画界の至宝アーミル・カーン出演『シークレット・スーパースター』

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

歌うことが大好きな少女が、一夜にしてYouTubeで“スーパースター”に♪

誰もが夢を抱いている。誰もが明日への希望を胸に秘めている。少し先の未来には、きっととても素敵な時間が待っている。

母に買ってもらったギターを弾いて歌うことが大好きな1人の少女インシア(ザイラー・ワシーム)。父は、開発現場で働く労働者だ。堅物な父は、気に入らないことがあるとすぐに母に手を上げる。そんな時、彼女と弟、2人の子どものために母はじっと我慢する。父が仕事で不在になると、母子3人の楽しい時間が待っている。外に出かけてアイスを買ってもらったり、自慢の歌を聴いてもらったり、彼女が大好きな時間だ。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

ある日、母がプレゼントをくれた。思わぬ贈り物は、インターネットで世界とつながることができるパソコン、もちろん父には内緒だ。色んなことを調べたり、大好きな歌の動画を見たり、新しい楽しみが一つ増えた。

テストの結果が悪かったことに怒った父に大好きな歌を禁じられたインシアは、音楽コンテストに出たいという思いを込めて、自分の歌をYouTubeにアップすることを思いつく。ブルカで顔を隠した彼女は、ノートパソコンのカメラに向かって歌い始める。動画はたちまち大拡散、インシアは一夜にして謎の“スーパースター”になる。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

だが、YouTubeのことを知った父が再び怒りを爆発させ、パソコンを与えた母を責め、インシアから大好きなギターを取り上げる。自暴自棄になった彼女は、ノートパソコンを窓から投げ捨ててしまう。そんな時、彼女の動画を見た音楽プロデューサー、シャクティ(アーミル・カーン)が「レコーディングに参加しないか」と声をかけてくるのだが……。

インド映画界の至宝、アーミル・カーンが特別な理由

アーミル・カーンは特別だ。志の高さはもちろんのこと、プロデューサーとして自分が演じるべき題材を吟味し、俳優として並々ならぬ情熱を込めて役作りする。代表作『きっと、うまくいく』(2009年)や『ダンガル きっと、つよくなる』(2016年)などの実話を映画化した共感度満タンの感動作から、サーカス団に身を隠すスーパーヒーローを演じた『チェイス!』(2013年)、宇宙人になりきった『PK ピーケイ』(2014年)など、カーンの作品選びと演技にはいつも驚かされる。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

『シークレット・スーパースター』でカーンが演じるのは、かつて一世を風靡したものの、今はピントがズレた音楽プロデューサー。余計な一言で顰蹙を買い、時代遅れのセンスでヒットに恵まれない。半ば“終わった”キャラクターを絶妙な軽やかさで、時にキレキレに演じてみせる。そして何よりも素晴らしいのは、サポーティングアクトに徹したカーンの潔さだ。カーンの献身的な演技によって、誰もが大共感する少女の成長物語が描かれていく。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

だが、日本公開を前に激震が走った。小さな名女優、ザイラー・ワシームが「ここは私が属する場所ではない」と、突然引退を宣言したのだ。敬虔なイスラム教徒である彼女は、『ダンガル きっと、つよくなる』で髪を短くしたことや、信条に反する誇張した演技を求められることに心を痛めていたという。2000年生まれで間もなく19歳になる彼女は、これからは自分が信じる世界で生きていくと銀幕から姿を消し、まさに伝説の『シークレット・スーパースター』になった。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

楽しい映画を作る、ボリウッド精神みなぎる元気満タン映画!

『シークレット・スーパースター』には、アクロバティックな動きやダイナミックなアクションはない。デジタルの音の壁も作られず、膨大な数のエキストラも豪華絢爛なセットも使われてはいない。だが、映画が持つ普遍的な力が漲り、心の底から楽しめる映画を作ることにすべてが注がれている。難しくなく、誰もが共感し、共に大冒険する。悔しいこと、楽しいこと、切なくて悲しいこと、でも、諦めずに頑張ること。ハラハラし、ドキドキし、最後には飛びっきりの感動にうれし涙する。

『シークレット・スーパースター』© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

古き良き時代の語り口を忘れることなく、現代の共通言語ともいえるYouTubeを巧みに使い、いつの時代にも、どの世代にも訴えかける、少女の成長物語を紡ぐことに成功している。現代社会を生きるすべての観客に向けて、大切な「気づき」の要素を盛り込むことも忘れてはいない。

『きっと、うまくいく』や『ダンガル きっと、つよくなる』に続くアーミル・カーンの最新作は、映画の喜び、その原点が詰め込まれ、歌がテーマだから音楽も満載。ザッツ・ボリウッドたるこの作品を、心の底から楽しんでもらいたい。あなたも「きっと、うれしくなる」はずだから。

文:高橋直樹

『シークレット・スーパースター』は2019年8月9日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

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