クルマの購入、増税前なのに駆け込み需要が発生しない深刻な理由とは

中古車売却時にもらえるお金とかかる税金 確定申告は必要?

なぜ今回(2019年10月)の増税前は駆け込み需要が発生しない?

2019年10月1日以降に登録(軽自動車の場合は届け出)される車両は、消費税が現在の8%から10%に引き上げられる。クルマの価格は消費税を含んだ内税だから、改良などが行われなければ価格も2%値上げされる。

例えば消費税抜きの本体価格が200万円であれば、現在の消費税率が8%の価格は216万円で、10%に高まると220万円だ。

気になるのは消費増税前の駆け込み需要が発生するか否かだろう。駆け込み需要が発生すると、納期が遅れて登録(軽自動車は届け出)も2019年10月1日以降になり、10%の消費税を納めることになりかねない。そこで各メーカーの販売店に尋ねると「今のところ駆け込み需要は発生していない」という意見が大半を占める。

新車の販売台数(小型/普通車+軽自動車)を見ても、2019年1~7月の対前年比は、プラスではあるが1.2%にとどまった。直近の3か月は、5月の対前年比が6.5%増えたが、6月は0.7%減少して、7月は4.1%の増加だ。増える傾向にあるものの、駆け込み需要と呼べるほどの増加率ではない。

販売店に尋ねると「2014年(4月1日)に消費税率が5%から8%に切り上がった時は、駆け込み需要があった」というコメントが多い。

そこで2014年の販売台数を振り返ると、対前年比は1月が29.4%、2月は18.4%、3月は17.4%と一貫して大幅に増えていた。消費増税が行われた4月は5.5%の減少、6月も0.4%の減少であった。つまり消費増税前の駆け込み需要と、増税後の減少があったと分かる。

駆け込み需要がおとなしい主な理由

今回の駆け込み需要がおとなしい背景には、複数の理由がある。

まず増税率が2%と少ないことだ。消費税抜きの本体価格が200万円の場合、消費税率が5%の時は税込み価格が210万円だった。それが8%になると216万円だから、6万円増えていた。8%から10%の変更では4万円の上乗せに収まるから、割高感も抑えられる。

また今回は前回と違って、自動車に関連した税金の見直しが行われる事情もある。

2019年10月1日以降に新車として初度登録を受けた場合、自動車税が軽減される。排気量1000cc以下は年額4500円減って2万5000円、1001~1500ccは4000円減って3万500円、1501~2000ccは3500円減って3万6000円、2001~2500ccは1500円減って4万3500円になり、2501~3000cc以上の区分はすべて1000円の軽減だ。

自動車税の改訂について

この自動車税の改訂では、排気量の小さな税額の安い車種ほど減額が拡大している。1000cc以下は消費増税前が2万9500円、増税後は2万5000円だから15%の軽減になる。逆に2501~3000ccは、5万1000円が5万円に改訂されるから2%しか減らない。今は小型車が売れ筋だから、自動車税の引き下げは、消費増税による駆け込み需要と増税後の減少を抑制する効果がある。

また消費税が導入されたら自動車取得税を廃止する約束になっていたが、廃止する代わりに「環境性能割」という自動車取得税に似た新しい税金が導入される。つまり実質的に自動車取得税の廃止は嘘で、環境性能割に名称を変えて存続するわけだ。

この環境性能割について、消費税が導入される2019年10月1日から1年後の2020年9月30日まで、税額を安く抑える。例えば小型/普通車の場合、2020年度燃費基準達成車の環境性能割税率は、本来は取得価額の2%だ。これを消費増税後の1年間は1%に抑える。

排気量少ない車は増税後に購入する方がオトクになる?

中古車売却時にもらえるお金とかかる税金 確定申告は必要?

以上のような税金の引き下げや軽減の実施により、エンジン排気量が小さくて価格の安い車種は、消費増税後に購入した方がオトクになる場合もある。

例えばトヨタ パッソX・Sは、消費税が8%の現行価格は124万2000円で、10%に切り上げると126万5000円に高まる。消費増税に伴う値上げは2万3000円だ。

パッソのエンジン排気量は996ccだから、消費増税後に登録すれば、自動車税は前述のように年額4500円安くなる。6年間所有すれば2万7000円の軽減だから、消費増税分の2万3000円を上まわってお釣りがくる。

さらにパッソX・Sは2020年度燃費基準プラス10%を達成したから、2020年9月30日までに登録すれば環境性能割が非課税になる。消費増税前の購入では2万3200円の自動車取得税を納めるから、増税後に買えばこの金額も支払わずに済む。

低価格・低排気量の車は増税後に購入する方がオトク

以上のように排気量の小さな低価格車は、2%の増税額が少なく、なおかつ自動車税の減額は多い。環境性能割の軽減措置も加わり、消費増税後の購入がオトクになる。

しかしパッソと同じ1000cc以下のエンジンを搭載した車種でも、トヨタ ルーミー カスタムG-Tでは話が変わる。消費税8%の価格は196万5600円だが、10%になると200万2000円だから3万6400円の値上げだ。6年間所有して自動車税の軽減が2万7000円でも、差額が1万円残ってしまう。環境性能割は、ルーミーカスタムG-Tでは本来の2%から1%に軽減されるが非課税にはならない。トクしない場合もあり得るわけだ。

なお消費増税の2%上乗せは、車両本体やオプション価格だけでなく、販売会社が手数料として受け取る各種の法定外諸費用にも適用される。消費増税後に購入する時は、そこも含めて考えねばならない。

結局、増税前と増税後に車を購入するのはどちらがオトク?

車の維持費は都心ではバカになりません

結論をいえば、エンジン排気量が1500cc以下で現在の税込み価格が140万円を下まわる車種は、消費増税後に買った方がトクをすることも考えられる。それ以上の車種は、消費増税前に買いたい。それでも以上のような税金の改訂があると、駆け込み需要は発生しない。

そして駆け込み需要が発生しないもうひとつの理由は、クルマの需要が冷え込んだことだ。消費増税前に急いで買いたいと思うクルマがないために、駆け込み需要も発生しない。

この事情は今のクルマの売れ方も裏付けている。2019年上半期(2019年1~6月)の販売ランキングは、1位がホンダ N-BOXで(少数のスラッシュを含む)、以下、スズキ スペーシア、ダイハツ タント、日産 デイズ(ルークスを含む)、トヨタ プリウス(αとPHVを含む)、ムーヴ(キャンバスを含む)、ノート、アクアと続く。新車として売られたクルマの37%が軽自動車で、そのほかの売れ筋も実用指向の小型車が中心だ。

こうなると愛車の車検期間が相応に残っている場合、急いで買わずに乗り続けようと考える。愛車が古くなり、修理費用の負担が増えた時に乗り替えれば良いからだ。

つまり駆け込み需要が発生しない大きな理由に、魅力的なクルマが減ったり、所得が伸び悩んでいることが挙げられる。そこに自動車市場として一番の問題がある。

[筆者:渡辺 陽一郎]

© 株式会社MOTA